ドラクエ2

□DQ2 if
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メガンテールのミーニョさんに、「漫画にしてけれ!」と送った設定を小説(風)に仕立て直しました。
因みにこのネタの背景にあるのは「DQ2鉄砲玉伝説」とローマ皇帝の逸話。

BGMは「恋人はサンタクロース」でお願いします。






 城の図書館の奥深く、ひっそりと隠されるように置かれていた古い本がある。装丁は厳かで、いかにも由緒正しい古文書という風体だ。しかし中を開いてみれば、なんのことはない。英雄と邪神の戦いについて記された、よくある英雄叙事詩に過ぎない。
 図書館の本はすべて読んだつもりでいた少年は、初めて見る本に目を輝かせ、大切そうにその本を抱えていった。
 身形の良い、貴族風の少年だ。重たい本を、少年は毛足の長い絨毯の上にそっと置き、破かないように慎重に頁を捲り始めた。



 粉雪が舞い散る窓の外を、老人は見るとはなしに眺めていた。落ちる雪のように、老人の生も緩やかに落ちていく。
 ほう、と胸に溜まった息を吐いたとき、老人は近付く気配に閉じていた瞼を開きそちらを見た。
 やって来たのは、頬を紅潮させた少年。その胸に、大切そうに大きな本を抱えている。
 暖炉の前、ロッキングチェアに座る老人のところまでやって来ると、少年は、興奮覚めやらぬ様子で手にした本を突き出した。


「これ、すごく面白いんだ。こんなに面白いのに、どうして街にはないんだろう?」

 老人は手渡された本の装丁を愛しそうに撫でた後、少年がそうしたように大切に大切に本を開いた。




 ハーゴンを倒した直後、僕は強い衝撃を受けて気を失った。
 何があったのかはわからない。ただ、気付いた時、ローレが僕を抱き起こしてくれていた。
 周囲の情景は一変していた。
 連れて来た兵士の屍が散らばり、建物は瓦礫と化している。黒と灰色、赤だけの世界。まるで地獄のような惨状だった。
 磁場が狂っている。凄まじい魔力の奔流に、全身の毛がぴりぴりと逆立つ。
 ローレは僕を立たせると、強い眼差しで一点を睨んだ。そこに、ムーンがいた。そして、磁場を乱している原因も。
 以前、ムーンから聞いたことがある。
 ハーゴンが何故、ムーンブルクを襲い、ムーンを浚おうとしたのか。
 ムーンブルクには異界の扉を開く古代の秘技が伝わっており、ムーンがその伝承者であるという。ハーゴンは異界の神、シドーをこの世に解き放つため、ムーンブルクを、ムーンを狙ったのだ。

 ハーゴンは倒した。
 邪神の像は砕かれ、異界の神を召喚しようというハーゴンの企みは阻れた。
 異界の扉は開かれない。生け贄の巫女たるムーンは僕らが救いだし、共にハーゴンを倒したのだから。

 なのに

 何故?

 なにがあったのかわからない。僕らは勝ったんじゃなかったのか?

 なのに何故、ムーンは狂った魔力の渦を、必死に押さえ付けているのか。
 あれは、異界へと続く魔力の乱れだ。

 混乱する僕の手に、ローレが何かを握らせた。

「おまえは戻れ」
「どうして!? ムーンを助けなきゃ」

 承服出来るわけがない。
 ローレを押しのけ、ムーンに駆け付けようとした足がふらつく。逆に僕はローレに押しやられていた。肩に、力強いローレの手。

「いいか、よく聞け」

 静かだけれど強い瞳。
 心臓がざわめく。

「邪神の復活は始まってしまった。今はムーンが抑えているが長くは保たない。俺はロトの剣の力で奴を封印する」
「僕も行く!」
「ダメだ!!」

 なんでだよ?
 なんでだよ!?
 異界の扉が一度開けば、もうこちら側から閉じるのは不可能だと、以前、ムーンから聞かされていた。
 僕らは仲間だ。
 三人一緒のチームだろう?
 これまでずっと、三人でやって来たじゃないか。三人だから、やってこれた。そうじゃないのかい?

 違う。
 ほんとは知ってる。
 たった1年だけど、遅く生まれた僕は、結局いつまでもその1年を埋められなかった。
 ずっと足手まといだった、ってわかっているんだ。
 きっとこれから先何年たったって、僕らの差は縮まることはないだろう。
 ふと見ると、ムーンは滝のような汗を流し、強大な力に抗っている。今にも死にそうな蒼白な表情をしているくせに、ムーンは僕に優しく微笑み頷いた。

「おまえは俺達の愛したこの世界を守ってくれ」

 ローレは笑み、僕の体を強く抱いた。

「ごめんな。一緒にいてやれなくて」

 それが、僕の聞いた、最後のローレの言葉。
 次の瞬間、僕はローレに突き飛ばされて、無様に尻餅をついていた。
 呆然と見守る僕の前で、ローレはムーンの肩を抱き、二人はそっと微笑みあって光の中に消えていった。

 それが、僕の見た、二人の最後の姿だった。


 二人が消えると同時に、光もまた吸い込まれるように消え、辺りに静寂が訪れた。

 僕は暫くその場に留まっていた。二人がそこからひょっこり現れるような気がして。

 そして何日か過ぎた頃、僕は理解する。
 もう二人は僕にはいけない場所に行ってしまったのだ、と。

 ああ、そうだ。
 二人との約束を守らなくちゃ…

 そうして僕は、帰ってきたんだ。




 本を手にしたまま、読むでもなくじっと動かぬ老人を、少年は訝しげに揺すった。

「…さま?…お祖父様?どうしたの?」
「あ、ああ…」

 穏やかな目で、老人は少年の頭に骨張った手を乗せて愛おしげに撫でる。そして、

「本物のローレシアの王子とムーンブルクの王女は、もっと勇敢で気高く強い人達だった」

 ぽかんと彼を見る少年に、老人は微笑み、本を返した。
 そうして、長く長く胸に溜まった息を吐く。深くロッキングチェアに腰を沈めて、老人は瞼を閉じる。
 太陽の光を跳ね返し、金色に輝いていた美しい金髪は、今は真っ白く色を失い。かつてあまたの魔物をほふった魔力も、国一番の剣の腕も、長い年月の中を老い錆びて失われてしまった。
 けれど彼は、あの日、二度と手の届かぬ場所に去った友との約束を守り続けた。今も、守り続けている。
 二人が愛し、守った世界。彼自信もまた、愛したこの世界を、生有る限り守ること。


 あれから、人間同士の争いもあった。
 望まぬこととはいえ、彼は譲られたローレシアの王位を、亡き親友とその父親の遺志として継承し、それが為に争いが起きた。
 結果として、ローレシア王子の偉業を讃える英雄譚は、語ることを許されなくなり、あの悲しい出来事を記す書物は、もうここサマルトリア城の書庫奥深くに一冊が残されるばかりだ。


 ――それでも

     僕は覚えてる


 瞼を開き、見た窓の外では、いつの間にか雪も止み、春の優しい光が雲間から地上に注いでいた。
 その光の中に、懐かしい気配を感じる。
 いつでも、この世界のそこかしこに。

 そうして老人の手の中には、あの日、ローレから託された、ルビスの守りが輝いていた。



* 跡取り息子を失ったローレシア王は、息子と共に旅をしたサマルに王位を譲ると遺言するが、ローレシア王子に心酔していた一部の若い騎士による反乱が起きる。完全併合の後、二度とこのような反乱を起こさないようにとの戒めを込め、ローレを英雄視することはタブー視されるようになる。ために末裔達の物語は多くが処分され、サマルトリアを英雄とする伝承に上書きされた。



終り

オチ
この時サマル推定482歳。ハーゴンの呪いは未だ彼の身体を蝕んでいた。
「まだまだ元気じゃわい。フンヌー」


どの辺が恋人はサンタクロースかって、「違うよそれは絵本だけのお話♪」のところです!

*補足
三人は軍を率いて邪教徒と戦っています。
連合の盟主はムーン。この辺りの設定は、他のぽりんワールドと共通です。
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