ドラクエ1

□竜の勇者と呼ばれた男
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ぐぅ


 同盟国ムーンブルク王の招聘に応じ、ローレシアを発って三日。
 常に我等の先頭に立ち、正面だけを見据えて進む王に従い旅を続けている。
 ムーンブルク王からローレシア王を招くというのなら、先方から迎えなり随行者を寄越すのが筋だろうに、ムーンブルクからは手紙一枚寄越したきりだ。これについて我等家臣団は少なからず憤りを覚えたものだが、当のアレフ陛下は「お目付け役のいない遠足なんて最高じゃないか」と笑った。
 こういうアレフ陛下だからこそ、我々のような海兵上がりを近衛騎士に抜擢し、お側に置いてくださるし、我々も身命を賭してお仕えしようという気になったのだ。
 陛下は、立派な方だ。王としての資質云々については後世の歴史家の判断に任せるとして、男として、戦士としては世界一に違いない。
 陛下は…

「……ド。おい、バド!」

 はっ、と息を飲むと、真横にいる陛下と目があった。

「どうした? 熱にやられたか?」

 まさかな、とからかうような笑みの中に、本気で心配していることが伺える。

「いいえ。大丈夫です」
「そうか。あまり上ばかり見ているなよ」
「はい」

 馬上できっちり敬礼すると、陛下は頷いて馬を進めた。いつの間にか先頭からここまで下がってきていたのだ。先頭にいてすら、背後に付き従う個々の兵士を気遣う視野の広さと懐の深さに、ますます敬服する。

 ああ、ですが陛下。
 出立からずっと、薄れることなく残る襟元の赤い印が、気になって仕方ないのです。

 だから俺は、否、我々は、太陽のごとき王から目を背け、敢えて中天の太陽を見上げるのです。


20130711
おまけからお引っ越し
DQ1の短編ぐうの音も出ないのおまけです。

陛下、いちゃつくのは結構ですが、やもめな部下の心理も察して下さい(笑)
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