ドラクエ1

□竜の勇者と呼ばれた男
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2ー2

 船団を率いてローレシアの海域まで侵入したラダトーム軍を水際で殲滅し、友軍にはさしたる被害も出さずに快勝したというのに、戦勝パレードの先頭で馬に揺られるアレフの心中は決して晴れやかではなかった。歓呼で迎える民に笑顔で手を振るが、その笑顔はどこか不機嫌そうに見えたし、内心の焦りが伝わるのか、馬の足も早い。
 いつもならたっぷり一刻はかけて町中を練り歩き、城で待つローラや側近が痺れを切らして早く帰ってこいと使者を出すくらいなのに、この日は逆に呆れるほどあっさりと入城した。あまりに早くて、側近たちの出迎えが間に合わなかった程だ。

「陛下」

 揃っての出迎えが間に合わなかった事を詫びに来た側近は、思いの外不機嫌そうなアレフに口ごもった。しどろもどろと言い訳を口にする側近には構わず、ひらりと馬から降りたアレフは、手綱を側近に押し付けて声高に師団長を呼んだ。

「ここに」

 河原で若い母親の名前を訊ねたあの兵士だ。訳知り顔でアレフの所へやって来て、ついでに目を白黒させている側近に目配せして手綱を預かる。

「兵に恩給を与えて、次の指示を待ちます」
「ああ。頼む」

 言うが早いか足早に歩き出したアレフは、二歩目を踏み出した所で師団長を振り返った。少し頭が冷えたらしい。

「マードック」

 ばつが悪そうな、気恥ずかしげな、そんな顔。そんな表情をすると、年相応の若さが覗く。
 マードックと呼ばれた中年の師団長は、まるで息子とでも対しているように鷹揚に頷いた。

「任してください」

 いいから行けと目配せする。アレフはすまなそうに頷くと、今度こそ勢いよく歩き始めた。政庁である建築途中の城には向かわず、国王一家が暮らす館へ向かう。前庭でボール遊びをしていたベルーノが目敏く父親の姿に気付いて歓声を上げた。弟の声にパッと振り返ったアザッロが、父親譲りの身体能力を遺憾無く発揮してアレフのもとへ駆てくる。

「お帰りなさい! 父上!」

 さっとアレフの直前でブレーキをかけ、背筋を伸ばしてきっちり挨拶したアザッロの髪をアレフが撫でてやっている頃、兄に遅れてベルーノもやって来る。こちらはアレフの前でブレーキをかけることなく突っ込んできて、だっこをせがんだ。

「こら! ベル!」
「や〜〜!」

 離れろと服を引っ張る長男に、次男は不服そうな声をあげた。

「ベルーノ!」

 兄の叱責に、弟はますますしっかりと父の裾にすがった。尚も叱ろうとするアザッロごと、アレフは息子たちを抱き締める。

「ただいま。二人とも大きくなったな」

 小さなベルーノと少し小さなアザッロ。前回の出兵では、片腕に一人ずつ、二人同時に抱き上げてやれたが、今はそれも難しい。
 次男はへへへと幸せそうに、長男は少し恥ずかしそうに、それぞれ笑って、父親に抱き着いた。
 一夏見ないだけで、こんなにも成長するものか。感心するとともに、一抹の寂しさも感じる。息子たちがこれほど大きくなっているのだ。ローラの胎の子が産まれるのも当たり前だ。

「かあさまは?」
「お部屋に」

 自嘲に駆られる父には気付かず、兄弟は揃って二階の一室を指差した。

「ああ。ありがとう。父様はかあさまとお話があるから、お前たちはもう少し遊んでおいで」

 アザッロは「はい」と聞き分けよく頷いたが、ベルーノは不平を鳴らしたので、アザッロにはたかれた。
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