ドラクエ1

□竜の勇者と呼ばれた男
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 遥か昔、天空より現れて闇に覆われた世界に光をもたらした勇者ロトは、様々な魔法を操り、自在に空間を渡ったという。彼の操る魔法の秘技は、彼の仲間たちによりアレフガルドに伝わり広まったというが、平和な世を甘受するうちにそのほとんどが失われ、現存するものもその形を変えてしまった。
 アレフの使うルーラなどがその最たるものだ。
 アレフは最初、ルーラは一方通行の物だと思っていた。今居る場所から、事前に魔方陣を敷いた安全地帯に戻る。いわば危機回避の魔法だと。しかしラダトームを出て、ムーンブルクに立ち寄った際、ルーラはイメージした場所へ瞬間移動する魔法だと知った。術の構造は基本的に変わらない。アレンジを加えれば、高速飛行の手段ともなる。
 これ以外にも、アレフの旅は、発見の連続だった。
 まず、ラダトーム以外にも人の栄える国があった。
 まず辿り着いたのがムーンブルク。
 嵐を避けて寄港した港で海賊を退けたアレフは、その武勇を見込まれて魔物や山賊を退治した。
 ムーンブルク王はアレフを大層気に入り、城に部屋を用意して2年の間もてなした。その間アレフは王に力を貸し続け、代償のようにムーンブルクに伝わる魔法の術を学んだ。
 アレフとローラの素性を知ったムーンブルク王は、アレフの武勇とローラの美貌にひとしきり納得した後で、予てより頭痛の種であった、ローレシア大陸の内乱平定を持ち掛けてきた。
 アレフとローラには二人が生きていく新天地が必要で、ムーンブルク王からの依頼とあれば銘文も立つ。
 ムーンブルク王にしてみれば、兵を派遣してまで海を隔てたローレシアの地が欲しいわけではなかったし、手に入れるならば少数部族に別れているローレシアが統合されてからの方が労が少なくてすむ。
 両者の利害が一致して、アレフはローレシアの平定に乗り出した。
 とはいえ、アレフが自由に出来た戦士の数と言えばラダトームから連れてきた船乗り達だけで、ローラの身辺警護にも人員を割かねばならないとなれば、その数は10人程度というところだ。馬鹿正直にローレシアに攻め入ったとしても、平定など出来るわけがない。
 そこでアレフは、ムーンブルクに取り入ったとき同様、港町から内陸部へと集落単位で懐柔していった。
 男手を提供し、外敵を退け、退けた部族の長へ講和を申し出る。それを繰り返し、5年もたたずにアレフはローレシア大陸の覇権をほぼ手中に修めることに成功した。恭順の意を表した部族にはそのまま自治を認め、かわりに王都建設のための税を納めることを義務付けた。他にアレフが求めたのは、有事の際の統帥権と兵士の供出で、これは常勝不敗の王のこと、不満などどこからも上がらなかった。
 王都の建設開始から2年が経過する今、何もなかった平原には広大な農地と人々の営みが広がる。
 兵舎、厩、武器庫、練兵場などが優先的に整備された為、台地に作られたアレフ夫妻の居城は「城」というよりは「館」という貧相な風情のままにされている。奉公人も極端に少ない。平民出事で傭兵暮らしが長かったアレフとは違い、ラダトーム城の深窓で育ったローラには不自由ではないのかと慎ましい国王一家の暮らしを心配する声もあったが、ローラはその度に、苦労はないと微笑んだ。
 見目も麗しく、私生活も慎ましい国王一家の人気は高く、打算的な豪族達の長でさえ、アレフには心酔していた。だから当然、深夜になんの前触れもなく、それこそ何もない空間に突如姿を表したとしても嫌な顔ひとつせず出迎える。

「アレフ様」

 アレフが最初に訪れた港町だ。今は病身のラダトームの使者を預かっている。
 領主は親書とともにローレシア城にいるので、館を預かっているのは領主の息子だ。といってもアレフよりも10近くは年上だろう。
 後に転移の間と呼ばれる部屋に突然現れたアレフを、領主の息子は片膝を付いて迎えた。

「突然すまない」

 自らが彫り込んだ壁の印を指でなぞり、アレフは領主の息子を振り返り微笑んだ。
 行ったことのある場所に瞬間移動することが出来るルーラ。あらかじめ魔方陣を敷いておけば、それが術者の目印となり、術発動の扶助(たす)けとなる。
 陣が敷いてある場所にアレフがルーラで現れるわけだから、不意をついて害する事も出来る。陣を消してしまえばルーラしてくることは出来ない。つまりルーラの陣があることは、アレフと領主達との信頼関係の証ということだ。

「使者に会いたい」

 単刀直入に用件を伝えるアレフに、領主の息子も心得顔で応じる。自らが案内を務め、使者の看護をしていた下女にさっさと暇を与えると、一礼して部屋を出た。
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