◆ときめきトゥナイト

□お題外2
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偶然? 勘違い?



…あれ?

いつもの通学路。高校三年間を通い続けた毎朝の代わり映えのない世界に、突然それは私の目に飛び込んできた。

周囲からひとつ抜きん出た、明るい髪色。日本人離れしたすらりとした体躯。白磁の膚に整いすぎた眉目。

「緋生くん」

思わず口を突いて出たのは、小学生の頃好きだった同級生の名前だった。
彼は、江藤緋生くんは、明るくて運動も勉強もできて、クラスの人気者で、当然女子の一番人気だった。特に目立つ存在でもなかった私には、接点のせの字もない。憧れの存在。
しかも彼は中学からは私立の男子校に行ったので、小学校の卒業以来6年会っていない。地元なのだから、すれ違ってもいいくらいなのに、そんな偶然すら、今日のこの日まで全く無かった。
それが、なんで今日、偶然見つけてしまったんだろう。
今日は、年齢=彼氏いない歴の私の18歳の誕生日で、みかねた友人によるカラオケの予定が放課後に入っている。正直乗り気ではない。だって、見ず知らずのしかも他校の男子となんて、いきなり何を話したらいいの? カラオケなんてとんでもない!!
でも友達は私の気持ちをわかってくれなくて…。たんにあの子達は、私をダシに自分達が遊びたいのだと思う。

はぁ

とぼとぼと歩いていた私は、信号待ちの交差点で大きなため息を吐いてしまった。

「はぁ…」

ん?
同じタイミングで聞こえたため息は私のものではなくて…

「ええ、江藤くん!?」
「あれぇ、植野さん?」

見上げると照れたような笑顔。
ななななんで? もうちょっと先の方を歩いていたはず。追い付くほど早く歩いてないのに!
どぎまぎしている私をよそに、江藤くんはニコニコと「久しぶりだね」と話しかけてきた。
て、え?

「どうかした?」
「や、だって、名前…」
「ウソ、ごめん間違えてた? やばっ、ごめんな!」
「う、ううん! 間違ってないよ!」

覚えててくれたこととか、気付いたことに驚きなんだってば。だって、目立たない子だったし、あれから6年経っているんだよ?

「だよな。植野雪輝美。合ってた?」
「合ってる合ってる。凄いねぇ。緋生くん記憶力良かったもんね」
「そっちだって、覚えててくれたじゃん」

って!!

隣に並んで顔を合わせて言葉を交わしていること自体信じられないのに! その笑顔、そんな笑顔! もう私今日、死ぬんじゃなかろうか。

信号が青にかわって歩き出すとき、彼が歩調を合わせてくれているのがわかった。きっとモテ男な彼には普通の事なんだろうけどと、嬉しさは寂しさに変わってしまう。

「どうかした?」
「えっ?」

そんなに顔に出ていたかな。

「あー、今日ね、友達が男の子を紹介してくれるっていうんだけど、私、そういうの得意じゃなくて、困ったナァって」

何をベラベラと喋っているんだろう。緋紆くんには関係ないのに。

「いるよなぁ。お節介なやつって。うちのクラスにもいるよ。そいつは彼女出来て幸せらしいんだけどさ、のろけてるだけならまだ許すけど、お前も彼女作れとかうるさいっつーの」
「えっ!?」
「え?」
「緋生くん、彼女居ないの?」
「居ないよ? 悪かったな」
「悪くない! 悪くないよ。えーと、ごめん」
「いいけど」

すねた表情がかわいい。なんて言ったら怒るよね。
えー、でも、意外。彼女。居ないんだ。…やばい。にやける。

「中学から男子校じゃん? 彼女なんかできるわけないし」
「そういうもの?」
「そーゆーもん」
「緋生くん、かっこいいのに…」
「え?」
「えっ!?」

あ、やば。声に出てた。
顔が熱くなってきた…。

「………」
「………」

恥ずかしくて。何となく居たたまれなくて、駅まで私はひたすら足許を見続けて無言で歩いた。なにか話さなくちゃ。こんな機会、もうきっと絶対に来ない! でもなんて切り出せば?
なんて頭の中でやってるうちに駅に着いてしまって、私はようやく顔をあげた。

「雪輝美ちゃん、学校どこ?」
「え? 二藤女子高…」
「じゃあ、逆方向か。ケータイ持ってるよね?」
「あ、うん」

反射的に取り出したケータイをひょいと取り上げて、緋生くんは私の携帯にカチカチとなにかを打ち込んだ。

「それ、俺の番号」
「え…?」
「やばい。電車来ちゃうか。じゃあ、また!」
「ああ、うん。またね…」

語尾が消えるより早く階段を駆け上がる後ろ姿を呆然と見送った。何が何だか…
でも、腕時計から一瞬目を上げ、私を見た緋生くんの顔が、赤かったような気がする。

「…顔、熱い」

誕生日って、素敵かも。




20171125
続く!
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