◆ときめきトゥナイト

□ときめき お題外
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まだ君に恋してる


『きゃーー!!』

脳天を貫くハート付の悲鳴に、卓はノートの隅までシャープペンで線を引くはめになった。

(…またか)

勘弁してくれと、受験生は頭を抱える。
生まれながらのテレパスだ。辺り構わず声を拾うことは流石にないのだが、あまりに強い思念や、近距離にいるもの、親しい間柄だと、どうしてもフィルターを通して卓の脳に入ってきてしまうのである。

因みに今回の声の主は、これらの条件のすべてに当てはまる。
卓の勉強部屋の真下のリビングで、テレビを見ている母の強烈な思念は、今もガンガンに卓の頭に流れ込んでくる。

『カッコいい! きゃー! ステキステキステキ!! 大好き!!』

ついでに今母が思い浮かべている、というか、母の目に写っているモノまでが流れてくる。
恐らく卓が見ているモノより三割増しで美化された、父の姿だ。

(何十年と毎日見てて、飽きないのかね)

あきれ半分苦笑する。

(何のCMだろ)

気になって部屋のテレビをつけると、ちょうど、自分と良く似た父親がファイティングポーズを決めていた。

『きゃーーーー!!!』

先程よりも大きな悲鳴に思わず耳に指を突っ込んだ。防げるはずもないのだが。

『あー、居なくなっちゃった。もっと映ればいいのにぃ』

父の姿が消えて、セキュリティ会社のロゴが流れる。と、同時に母のがっかりした声。
ぷっ、と、卓は思わず吹き出した。

父が契約しているCMは多くはない。そのルックスから、オファーは来るのだが、性格と性質の問題で露出を控えている為だ。まさか、ついうっかり、映っていない、なんてことになったら目も当てられない。
なので、母は父の出るテレビはほぼ録画している。曰く、貴重らしい。
本物が家にいるのだから、そんなに有り難がらなくてもいいのに、とは口が裂けても言えない。

(喧嘩してるよりは全然ましだけどな)

母の興奮がおさまったようなので、卓はテレビを消して、再び問題集に取りかかるのだった。
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