ドラクエ3

□明けぬ空を背負って(本編2)
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 祠は火山を利用して作られた洞窟に繋がっていた。誰が何の目的で作ったものなのかは考えるまでもない。よく見れば、壁のそこかしこに爬虫類の鱗を思わせるきらきらと輝くものが張り付いていた。
 岩がまだ柔らかいうちに、八又之大蛇が自分の体を使って掘り固めたのだろう。
 鱗の大きさ、ウロの広さからみても、八又之大蛇の大きさはかなりのものだ。家ほどの大きさはあるだろうか。そんな大きな化け物相手に、人の身でどれほどの事が出来るのか、ふと不安になり手の中の剣を見る。
 熔岩をものともせずに、こんな場所に棲んでいるのだから、炎には耐性があると見るべきだろう。

 どう戦う?
 勝てるのか?

「どうした」

 隣から声をかけられて、アレクシアは思考の海から引き戻された。
 顔を上げれば、いつも通り、緊張感のかけらも感じさせないセイの顔。

「や、なんでもない」

 振り返れば、ディクトール、リリア、レイモンドもいる。
 自分にはこれだけの仲間がついているのだ。自分には出来ないことも、仲間が補ってくれる。そうしてこれまでもやってきた。
 勝てるのか、なんて気弱に考えている場合ではない。勝つのだ。どうやって勝つのか。考えるべきは、ただそれだけ。

「行こうか。地獄の一丁目だ」



 そこが八又之大蛇の寝倉なのだろう。一際広い空間に、入口にあったのとは比べものにならないほど立派な祭壇が設けられていた。そしてそこに、八本の首をたゆらせ、巨大な獣がその偉容を横たえていた。

 近付いてくる敵意もあらわな人間達に、八本の首が一斉に鎌首をもたげる。そのうちの一本が妙に人間くさい仕種で目を細め、ちろりと蛇の舌を覗かせた。

《男は好かぬ。肉が固くて臭い故にな》

「誰が食われるかよ」

 武器を構えるセイを、蛇が嗤う。

《贄は生娘が一番じゃ。娘、我が血肉となり大王様のために働けること、光栄に思うがよいぞ》

 のそりと祭壇から体を起こす。それだけで、洞窟全体が揺れた。

「やはり貴様、バラモスの手下か!」

《あのような下賎な輩と、わらわを一緒にするでないわ!》

 くわっと目と口が開き、蛇は炎を吐いた。鉄をも溶かす高温が5人を襲う。
 火炎が煙を燻らせて消えたとき、八又之大蛇はしまったという風に首を揺らした。

《折角の贄が…。これでは新しい娘を寄越させねばならぬ》

 ずるりと尾をゆらし、祭壇の上に戻ろうとした八又之大蛇は、鋭い痛みを覚えて後ろを見た。

《おのれ…!》

「新しい贄は必要ない。永遠にな!」

 何かを投げた姿勢のままで、贄の娘が叫んだ。



「散開しろ!」

 高熱のブレスを盾で受けながらセイが怒鳴る。
 合図を待つまでもなく、アレクシアとレイモンドは左右に跳び出し、半歩遅れてディクトールはアレクシアの後に続いた。

 重ね掛けされたフバーハをもってしても、八又之大蛇が吐く炎を完全には防ぎきれない。セイの持つ鉄の盾の表面が赤く熱を持ち、こらえきれずにセイは盾を捨てた。

「前に出るなよ!」

 言われるまでもなく頷いて、リリアは呪文の詠唱に入った。巨大な八又之大蛇の巣らしく洞窟内は広い。多少派手な呪文を使っても差し支えはなさそうだ。

(炎系はきかなさそうだけど)

 アレクシアが放った雷の槍は効果があったようだが、いかんせんリリアにあの術は使えない。

「我は命ず、世界の理を超えし理よ。滅びに向かう海に眠りし、白き刃を研ぐものよ。今我が名と我が犠牲のもとに 閉ざされし門を越えて出でよ!」

 マヒャドの白い氷の嵐が頭上高く舞っていた蛇の頭を包み込む。悲鳴なのか、咆哮を上げてたまらず頭を下げたところをセイの戦斧が叩き潰す。

「まずひとつ!」

 しかしその横から、風をうならせながら別の首がセイを襲った。斧の攻撃は一撃一撃の打撃が重い分引き戻しが間に合わない。為にセイは盾を持っていたのだが、盾は先ほど鉄の塊に戻ってしまった。

「しまっ」

 まともに食らって吹き飛ぶ。叩きつけられた岩壁にワンバウンドして、砂礫とともに岩場を転げた。何とか反転して膝を起こすが、その途端眩暈を起こしてセイは地面に両手をついた。

「がはっ」

 痛みをこらえて吐き出した息に血が混じる。鎧の板金のへこみが、折れた骨の箇所を教えた。

「セイ!」

 かすむ目を凝らしてみれば、7本の首の攻撃をかいくぐり駆け寄るディクトールの姿が見える。

(オレはいいから、アレクを見てろって)

 セイは口に出していったつもりだが、どうやら声にはならなかったらしい。

「すぐ治す。じっとして」

 聞きなれた音節。暖かな光がディクトールの掌から注ぎ込まれてくるのがわかる。同じ呪文を2度、立て続けにディクトールは唱えた。

「わかってるだろうけど骨が折れてる。次に同じところに食らったら内臓に刺さるよ?」
「そういうことはあちらさんに言ってくれ」

 言ったところで気をつけてくれるどころか狙われそうだ。にやりと笑って、セイは立ち上がった。
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