ドラクエ3

□お題SS
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邂逅2
書いたの!と送りつけたところ、こんな素敵なイラストを春木さんが描いてくださいました!わーいわーい\(^-^)/ありがとうございます!

 きっちりと敷き詰められた石畳。計画的に並ぶ家々の真っ白な素焼きの壁。街中の随所を飾る花と彫刻。
 世界でもっとも美しいとされたロマリアの街を、一人の旅人が歩いている。
 旅人など、この街では珍しくもない。一時期よりは減ったものの、ロマリアを訪れるものはまだまだ多い。一人旅も多くはないが、皆無ではないし、その腰に帯びた剣を見れば頷ける。然り気無く腰に吊るされた剣と、実戦一辺倒の飾り気のない革鎧。少し腕に覚えのある人物ならば、旅人が相当な場数を踏んだ戦士だと見抜いただろう。そして剣士の風貌に、驚くに違いない。
 荒事などしたこともなさそうな、涼やかな蒼天の瞳、歳に似合わぬ凛とした口許。そして背中まで届く黒絹の髪。女だ。
 よくよく見れば美しいと言える容姿をしている。女剣士。一人旅。と来れば、人目を引かぬ方がおかしい。にもかかわらず、彼女を気にする素振りを見せる通行人は皆無に等しい。
 手品や魔法の類いを使っているわけではない。ただ気配を殺しているのだ。いうのは簡単だが、意図的にそれをやってのけるのは至難の技だ。しかし彼女はごく自然に街の雑踏に紛れ込み、何か懐かしむように道行く人を、街を見回している。その瞳が、やおら大きく見開かれ、やがてふっと優しく笑んだ。
 彼女の視線の先には、数人の男達がいる。傍目には、じゃれあっているという風にしか見えない年少の二人を、無責任に笑って見ている戦士風の男と、止めようとしている異国風の長身の男。じゃれあっている二人のうち、一方的に絡まれて顔を赤くしている妖艶なまでに美しい少年が、実は少女であることを、旅人は知っていた。
 旅人とはアリアハンの勇者オルテガの子アレクシスとして祖国を旅出ったアレクシアであり、男装の美少女もまたこの世界でオルテガの息子、勇者と呼ばれる人物だ。名をライという。
 アレクシアとライ。同じアリアハンに生まれ、同じ男を父に持つとされながら、全く違う世界に生きる二人。二人の世界は、元来同じでありながら決して重なることも交わることもない。
 それがどうして、一度ならず二度までも接点を持ってしまったのか。
 それはもう、神の気紛れであるとしかいいようがない。
 アレクシアは自分の世界から、創造の一柱たる神龍の命を受けてこの地に降り立った。世界にひとつしかない物を、本来あるべき場所に戻すために。それが世界中を旅し、世界の命運に触れた勇者たる者の務めのひとつであるらしい。
 今アレクシアが背負う袋の中には、黄金の王冠に、銀色に輝く鍵、不思議な輝きを放つルビーが入っている。かつてアレクシアが仲間との冒険の末に手にいれたそれらの品々も、アレクシアの前任者の手によって戻されたのかもしれない。
 異国風の男の背にかばわれて、ほっと少女らしい安堵の表情を見せるライに、アレクシアは背を向けて歩き出した。
 以前アリアハンで会った時は、頼る者もなく、世界中を敵に回したかのような、針積めた空気を纏っていたが、今は信頼出来る仲間がいる。今は自分を偽ることでしか、彼等に報いることも、自分を守ることもできないとしても、いつかは素の自分をさらけ出し、それでも傷付かずに生きていけるようになるはずだと、アレクシアは確信している。
 かつての自分がそうであったように。
 風に乗って、少年の甲高い声が聞こえた。名を呼ばれたような気がしたが、そんな筈はない。ここには、アレクシアを知る人も、アレクシアが知っている人も、どこにもいないのだから。
 アレクシアのロマリアは、アレクシアの祖国アリアハンは、もうどこにもない。
 解っているのに、この世界はアレクシアの世界とあまりに同じで、懐かしくて、勘違いしそうになる。
 家に帰れば、母が笑顔で出迎えてくれるのではないか。奥の部屋には父と、祖父が将棋を指していて、家事の手伝いをしている自分を、庭先から聞きなれた声が呼ぶのではないか−−−?
 ありもしない偶像が瞼の裏に浮かぶ。
 大好きな人達は、この世のどこにも、もう居はしないのに。
 アリアハンを訪れた時、何かのご褒美のように、夢を見た。友がいて、昔のようにふざけあった。
 目が覚めて、自分の世界に帰ったら、ここでの出来事など何も覚えていないのに、何故かひどく悲しくて、一人で布団を被って泣いた。なぜ泣きたくなったのか、今日この世界にやって来て思い出す。
 今日はご褒美もないらしい。あったところで趣味が悪いと神に悪態をついただろうけれど。
 同じだけれど違う世界。どこかで繋がっている平行世界。この世界に干渉すれば、自分の世界にも何か影響が出るだろうか。例えば今の自分にならば、苦もなく八叉之大蛇を倒すことが出来るだろう。そうすればあの悲劇は回避できる。友を喪わずに済む。
 喪ったものを思い、無意識に歯を食い縛っていた。ぎゅっと握り締めた掌には、じっとりと汗をかいている。
 禁忌に傾いた思考を振り払うように、アレクシアは駄目だと首を振った。
 そこまでの干渉は許されていない。それに、この世界でアレクシアが何かをした所で、それはアレクシアの世界には関係のないことだ。既に起きてしまった事を、無かったことには出来ない。更にはアレクシアの行動で、この世界の人々に迷惑をかけることになる。通りの向こう、雑踏に紛れ消えて行く少女を振り返る。彼女の存在理由を否定することは許されない。それではアレクシアの嫌悪する神と同じになってしまう。そんな横暴、そんな蛮行を、断じて行う訳にはいかなかった。
 ここは自分の生きる場所ではない。懐かしむだけの世界になど、なんの意味もありはしない。
 そう気をしっかり持たなければ、神の策略に絡め捕られて動けなくなる。
 マントの襟をかきあわせ、顔を隠すようにマントに首を埋める。こんな趣味の悪い冗談に付き合うのは、金輪際終わりにしようと、アレクシアは足早に歩き始めた。




20120222
リハビリというか、久々に書きたくなったのがこれだったのです。
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