ドラクエ3

□明けぬ空を背負って(本編4)
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57-3

この世界、アレフガルドは、精霊神ルビスによって創られた。
かつて神に背いた罪深き人々の王国から、心正しき者のみが神の御遣いに導かれ、この世界に移り住んだのが、ラダトーム王国の始まりである。
ラルス王やラダトームの人々の祖先は、かつてアレクシア達同様「上の世界」の住人であったのだという。

ーーラルス王はアレクシア達の前に絵巻物を広げて話す。その絵巻物には、かつてディクトールがランシールの神殿で見たものとよくにた絵図が描かれていた。
燃え盛る地獄から、白い霊鳥ラーミアの背に乗ってこの地へ降り立つ人々の姿だ。その人々の先頭には青い鎧に身を固めた一人の若者の姿があった。

かつての過ちを繰り返さぬために、人々は神の力の源である太陽の石と月の雫を別々に管理することと決め、石の管理者である神官は別々の大陸へと渡った。

太陽の石の管理者こそが、後にこのラダトーム王国の王となったラルス1世である。
今一つの秘石「月のしずく」の管理者たちがどこへ渡り、今どうしているのかはわからないという。というのも、10数年前に大魔王を名乗るゾーマがアレフガルドを闇の世界に閉ざしてしまったからだ。
魔王ゾーマを倒すべく、精霊神ルビスはラルス王家に再び神の力の一部を授けたが、ゾーマによってその神器も、神器を授けたルビスももろともに人間の手から奪われたのだという。

「もちろん我々もただ手をこまねいていたのではない。国中から勇者、英雄がルビス様を助け出し、神器を取り返してゾーマを打倒さんと旅立った。だが誰一人として戻らなんだ。神の声を聞く巫女によれば、今は世界再生の時。創世の神話同様、天上から来たる勇者こそが、この闇を払い、再生の朝を連れてくるという。ゆえに我等は、そなたたちを歓迎するのだ。勇者よ」

いつの間に移動したのか。部屋の隅で行儀悪く壁に寄りかかっているレイモンドが、ちっ、と、舌打ちをした。思いの外響いてしまい、国王と従者は明らかに不愉快そうな顔をした。
国王のいう話は、彼が最も嫌う類のものだと理解はしつつ、わきまえられないものかと内心でアレクシアはため息をついた。

「失礼いたしました。国王陛下」
「よい。突然のこと。驚くのも無理はない。わしとしては、昨年旅立っていった戦士こそが"ROTO"であると思うておったのだが…」
「ロト?」
「古の言葉で"光を呼び覚ますもの"、"暁光の使者"という意味じゃ。創世の神話に出てくる神の御使いのことだという説もある」

つま先で絨毯の毛並みを乱していたレイモンドの動きが止まる。リリアなどは面白いものを見つけたとばかりに瞳を輝かせてレイモンドを振り返った。

「うん? どうかしたかね」
「い、いいえ。どうぞ、続けてください。その戦士というのは?」
「うむ。確か…アリアハン? と言うたか。知っておるかね。そこの生まれだと言っていた」

よく知る名前に驚きを隠せない。

「は、い…。わたくしどもも、アリアハンから参りました」
「ほう。では知己かもしれぬな。オルテガという男だ。ひどい火傷を…」
「オルテガだって!?」

続く言葉をさえぎって、アレクシアは国王の胸ぐらをつかみかかる勢いで身を乗り出した。気色ばむ従者をレイモンドが抑え、アレクシア自身はディクトールが肩を掴んで引き戻す。

「落ち着いて! 人違いかもしれない」
「そんな偶然あるもんか!」

ディクトールの手を振り払い、動悸収まらぬ自分の心臓を上から押さえて、アレクシアは肩で息をついた。

「知り合いか」
「…父です」
「ほぅ。それは…」
「生きていた…。母さん。父さんが…」

両手で顔を覆い、呟くアレクシアを見る国王の瞳に、一瞬哀れみが浮かび、すぐに消えた。

「オルテガのことを知るものが城内にいるだろう。火傷を負っていたあやつを介抱していた侍女もおる。出来る限りの協力は惜しまぬゆえ、どうかこの世界を救ってほしい」

神に祈る形に手を組んで、国王はアレクシア達に頭を下げた。祈る神はもういない。祈る相手は、この目の前にいる若者たちしかいないのだった。
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