ドラクエ3

□明けぬ空を背負って(本編4)
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三角帆を巧みに操り、ガライは薄暗い海をすいすいと進んでいく。慣れた航路なのだろう、あれよと言う間に対岸にたどり着くと、船の固定と荷卸しを手伝うよう四人に指示を出す。

「なにもこんな夜中に出掛けなくても良かったんじゃないか?」

空を見上げながらレイモンドが問うた。見上げた空には星も月も見えない。

「……?」

雲が濃い、という訳でも無いようなのだが…
怪訝に思っていると、ガライは呆れたように笑った。

「なーに言ってるだか。もう昼間だよ。こん国はいつもこんなだ」
「……え?」

闇の中に松明の明かりに照らされた城壁が見えてくる。
その向こうの空に目を凝らしてみると、時折明かりが見える。一条の、そんなわずかな光さえ目を指すほどに眩しい。

「朝が来ねぇ訳ではねぇ。ただ、ずっとこのままなんだ。おらぁ、小さかったから覚えてないんだども、昔はこぉでは無かったんだと」

町に入ると何人かの人とすれ違った。皆一様に暗い、疲れた表情をしている。しかしガライを見て、ガライのつれているアレクシアたちを見て、その表情に僅かながら明るさが戻る。小さく歓声を上げる者すらいた。アリアハンでも感じたことのない、重たい期待。ヒソヒソと「今度こそ」とか、「あれがそうなのか」などと、値踏みする囁きも聞こえる。

「おらはここらで用を済ますから、おめぇさんらは王様さ会って来てけれ。詳しい話はやっぱり王様から聞いてもらわねと」

石畳を真っ直ぐに進めば城に着くと、指さして、ガライは一人でいってしまった。呼び止めようと声をかけても、ヒラヒラと後ろ手に手を振るばかりで振り返りもしない。残された四人は呆気に取られて、しばし路上に立ち尽くしたが、時間と共に増えていく視線の重圧に耐えかねて、逃げるように城へと進んだ。
薄闇の中でもはっきりと、城の姿は見えている。案内がなくてもたどり着きはするだろうが、いきなり訪ねて行って城の中へなど入れる訳もないし、まして、一国の王に面談など叶うわけもない。
そう思っていたアレクシア達だが、あっさりとその固定観念は覆られる。

「ラダトーム城へようこそ」
「王様がお待ちです」

城門の左右に控えた儀仗兵は、持っていた長槍でアレクシア達の行方を遮るどころか四人の旅人を歓迎した。
兵士ばかりではない。城の小間使いだろう人々が、代わる代わるにやってきて声をかけてくる。

「おお はるか国より来たれり勇者達に光あれ!」
「ああ、勇者さま! きっといつかこの国にも朝が来ると信じていますわ」
「このお城と海を挟んで向こうに見えるのが 大魔王のお城です。どうか我らをお救いください!」
「お城の宝だった武器や防具を 魔王が奪って隠してしまったんだ」
「大魔王ゾーマを倒すなどまるで夢物語だ。しかし、かつてこの城にあったという王者の剣 光の鎧 勇者の盾。これらを集められればあるいは……」

手を握られ、その手に薬草や見たこともないコインを握らされて、途方に暮れているアレクシア達を、上等な仕立ての中年の男が手招いている。

「こちらに王様がおいでです」

意匠を凝らした樫の扉が開いて、一番に目に飛び込んできたのは濃紺の布地に真白に縫いとられた不死鳥の紋章。

「…ラーミア」

思わず呟いたアレクシアの声は、横合いからの大声に掻き消された。

「おお! おおお!! そなたらか! 魔王を倒すため上の世界から来たというは? わしがこの国の王じゃ。よくぞ来た!」

王、なのだろう。略式の額冠が辛うじてその人物の身分の高さを表しているが、それさえなければ貧相な風体の初老の男だ。王というよりは神官といわれた方がしっくりする。男はアレクシア達の手を順に両手で握り、一人一人の目を覗き込んでは名を尋ね、よく来たと繰り返した。

「この国のことは聞いたかね」

四人に席を勧め、従者に飲物を用意させると、国王ラルスは先程とはうってかわって静かな口調で一同に語りかけた。
四人はそっと視線をかわしあい、代表してアレクシアが「何が何だかさっぱり」と首を振った。
ラルス王は苦笑して、長くなると前置きして話始めた。
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