ドラクエ3

□明けぬ空を背負って(本編4)
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 城付きのメイドをしているという娘の話を要約するとこうだ。

 曰く、二年ほど前、城の北にある遺跡上空がただ事ではない色に染まり、雷鳴が轟いた。直ぐ様調査隊が派遣され、その時に見付かったのが全身に酷い火傷を負った戦士だった。息があったのが不思議な位の大火傷だったという。調査のため、男は城下に運び込まれ、手厚い治療を受けた。治療の甲斐あって、男は意識を取り戻したが、記憶がなかったという。治療を続けるうちに男は自身がアリアハンのオルテガであり、魔王バラモス討伐が宿願であるということまでは思い出したが、ついにはそれ以上を思い出すことはなかったらしい。

「…それで、オルテガさまはそれから?」

 じっと黙ったままのアレクシアに変わってディクトールが先を促す。

「はい。バラモスが大魔王ゾーマの手先に過ぎぬことを知り、ゾーマ討伐の旅に出られました。半年ほど前までは便りもあったのですが、最近はどこで何をされているのか…」

 目尻の涙をそっとおさえ、娘はやおらディクトールの手を取った。そして

「お願いします! オルテガさまを探してください! いくらあの方が強くても、一人でなんて無茶苦茶です。オルテガさまを助けてください! あなたがただけが頼りなんです!」

 強く手を掴まれ拝まれて、さすがのディクトールも困惑したが、ほかに頼る当てがないとすがり付かれた手をむげに振り払う事も出来ない。

「大丈夫ですよ。ご安心なさい」

 聖職者特有の優しい笑みで、信者に祝福でも授けているかのようにディクトールは空いている方の手で娘の肩を軽く抱いた。

「オルテガさまと共に勇者アレクシアがゾーマを倒し、あなたがたの明日を照らしましょう」
「は、はい」
「それで、オルテガさまからの便りがあると言いましたね。取ってあるのですか?」
「はい! 全て」
「おお、それは素晴らしい! オルテガさまの消息を追う手がかりになります! お手柄でしたね。その手紙、全て預からせていただけますか?」

 にこり。問う形をとりながらも否やを言わせぬ強さで、ディクトールはこのまま娘の実家まで一緒に行き、オルテガの手紙とやらを預かる約束をしてしまった。

「じゃあ、行ってくるよ」

 呆気に取られている仲間達に軽く手を上げ、酒場の主人に借りた雨具を被って娘と出ていく。

「行っちまったけど…。追わんでよかったがか?」
「街中だ。危険もないだろ」
「あんたやレイじゃあるまいし、ディなら直ぐに帰ってくるわよ」

 ガライの危惧としてはリリアの解釈の方だ。一緒にするなとか俺だって相手は選ぶぞとか、男二人はぶちぶち文句を言っていたが、女子二人の冷ややかな視線を受けて黙りこむ。
 ガライが演奏をやめて、話の輪に加わってしまったので、酒場に溢れていた人も段々少なくなってきている。
 アレクシア達も今から更に酒を飲む気にもならず、かといって既に体内に取り込んでしまったアルコールのせいで軽い酩酊状態にあるから武具の手入れや習練をする気にもならない。ディクトールの戻りを待たねばならないからには一眠りするわけにもいかないから、結局はそのまま、四人は酒場に留まって、食事のメニューの内容を聞いたり、未だ酒場に居座る人々の雑談に耳を傾ける。
 狩りに出た誰それが戻らないだの、あそこの未亡人がどこそこの後妻に入るだの、十月満たずに生まれた子供が泣かずに棺に入っただの、明るい話題はほぼ無い。そんな話題に慣れっこなのは、話すものも、聞くものも、抑揚のない声と表情で簡単に推測できた。
 外が雨で、朝が来ないから暗いのではない。人々の心にも光が射さなくなって久しいのだ。この国は。
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