ドラクエ3

□明けぬ空を背負って(本編4)
10ページ/21ページ

59-2

アレフガルドでの2日め。
朝、と言っても空は黒いヴェールに閉ざされていて、いつまでも夜のような有り様だったが、一同は大体同じ時間に起きてきて一階の食堂兼酒場に集まった。
陽の光を浴びない目覚めというのはこうも気だるいものかと、皆どこか眠たげな、疲れた表情をしている。会話らしい会話もなく、食材が手に入らなくなったのだろう。黒塗りされ、代わりに見たことも聞いたこともない料理名が並ぶ、極端に品数の少ないメニューから、なんとなく味が想像できるものを選んで注文し、運ばれてきたものにほっとしたり、戦々恐々しながら各々が食事を進めている頃、四人とは比べるべくもない明るいテンションでガライが同じ卓に着いた。

「待っとってくれたらお勧めがあっただに!」

と言いながら、ガライはメニューも見ずに朝食を頼むと、すぐに運ばれてきたスープにパンのようなものを浸して、美味しそうにあっという間に平らげた。四人が頼んだはいいが恐ろしくて手をつけずにいた皿にも手を伸ばし、聞かれるままに味の説明などしながらこれまたすごいスピードで食べてしまった。

「で、今日はどうする?」

ガライに問われて、四人は顔を見合わせた。
今のところわかっているのは、城から見える対岸の、常に黒い雷雲に包まれた高台の城に倒すべきゾーマがいると言うこと。だから最終的にそこに辿り着くのだというのは分かる。わかるのだが、闇雲に突っ込んでいって勝機があるとも思えないし、そこへの行き方もわからないのだ。そしてなにより

「父さんを探したいんだ」

一秒足りとて待っていられない。そんな様子でアレクシアが切り出した。ガライ以外は彼女がそう言い出すことは予想がついていたので、まぁ落ち着けと、半分浮いたアレクシアを椅子へ押し戻す。

「父さんはゾーマを倒しに行ったのだから、父さんの消息を追えば自ずとゾーマの情報も入ってくるはずだろ!?」
「それなら全く逆のことも言える。ゾーマを追い掛ければ親父さんの情報も入ってくる」
「なら!」
「だが間違えるな。同じようで決定的に違うだろ。親父さんの話は昨日あれだけ騒いだんだ。放っておいても向こうから転がり込んでくるさ」

アレクシアとレイモンドのやり取りを黙って見ていたガライが、懐からしわしわの羊皮紙を取り出した。丁寧にシワを伸ばし、テーブルの上に広げたそれは、地図と呼ぶにはおこがましいが、簡略化されたアレフガルドの地図らしい。

「ダンカンの旦那の庵がここ。今いるのがラダトーム」
「そういえばあんた、いつまで一緒にいるつもりよ? 食料を調達したら帰るんじゃないの?」
「一度戻るだが、おら、行きたいところがあるだよ」

いきなりな申し出に、四人は困惑気味に顔を見合わせた。レイモンドは他人の無償の親切などと言うものを信じていないので、一人納得顔である。

「ここ」

と、ラダトームから左上へ指を滑らす。大陸の西北端だ。

「一人で行くには魔物が出てくると難儀なもんだで、一緒に行ってほしいだよ。あんたたちだけではまだこの世界は不案内だべ? おらがいた方がきっと役に立つだよ!」

自分がいることの利点を指折り数えるガライに、ディクトールとリリアは

「僕は賛成だけど…」
「ん、あたしも別に構わない」

と賛同しつつ、決断はアレクシアに委ねる算段だ。

「いいんじゃないか?」
「っ…」

アレクシアとしては直ぐにでもオルテガの消息を追いたいところだが、レイモンドの言うことも理解できる。

「ついで、で構わんが!」

身を乗り出して頼むガライも無下に出来ない。ガライに世話になったのも確かだ。

「わかったよ。一緒に行こう」

長いため息の後でアレクシアは頷き、歓喜したガライはアレクシアに抱き付こうとしてディクトールとレイモンドにテーブルに押さえつけられた。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ