ドラクエ3

□明けぬ空を背負って(本編3)
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 それから、六本足の獅子のキメラや金銀財宝を模した魔法生物、六本の腕にそれぞれ武器を構えた骸骨兵を倒し、時にやり過ごして 、アレクシア達はどうにか外に続く道を見つけた。
 風化してほとんど坂になっている階段を登り、日の光を感じる頃には、四人ともに軽口を叩く余裕もなくなっていた。
 あれだけぐちゃぐちゃに継ぎ接ぎされた空間だから、出口だと思ったら入口だった、なんてことにもなりかねないと思ったが、どうやら入ってきたのとは違う所に出たようだ。
 肌に感じる日差しは弱く、部厚い雲に被われた太陽の正確な位置はわからなかったけれど、中天からやや西に傾いており、丸一日は洞窟にいたことが知れる。

「山脈の向こう側に出たようだけど…」

 途方にくれたように呟いて、その場にへたりと座り込んだのはリリアだ。座り込みこそしなかったものの、同じ気持ちでアレクシアもその景色を見ている。
 濠なのか天然の湖なのかは知らないが、数歩の距離で大地はなくなり、湖が行く手を遮る。水面を覗きにいったレイモンドが、仲間たちを振り返って首を振った。歩いて渡れる深さではない。重たい装備を持って泳ぐのはもっと無理だ。

「どうする? ぐるっと廻って、渡れそうな所があるか探してみようか?」
「無駄な気もするがそうしよう」

 ディクトールの提案に頷いて、リリアに手を貸し立ち上がらせたアレクシアの目配せで、レイモンドはやれやれと〈鷹の目〉を唱えた。

「東回りで行ってみよう。何かある」

 何か、が何なのか最早誰も尋ねない。

「バラモスの居城へは、ラーミアの翼がなければ辿り着けない…」

 歩き始めて早々に、アレクシアが呟いた。どこで聞いたのか忘れたが、そんなことを聞いた覚えがあった。
 湖の向こう、絶壁のごとき険しい山の頂きに、確かに城は見えているのに、辿り着けないとはもどかしい。

「シルバーオーブはどこにある?」

 あの洞窟に隠されているのだとしたら難儀だ。もう一度潜って迷わず脱け出せる自信がない。
 アレクシアの独り言に誰も何も言わない。シルバーオーブは、ネクロゴンド山脈のどこかにあるというだけで、それ以上の情報は何もないのだ。もしバラモスが持ち去ってしまっていたら、アレクシアたちには為す術がない。
 セイバーグで聞いた話のままならば、シルバーオーブはこの山脈のどこか、隠れ里のようなところにあるのだろう。

「試しにあれ、吹いてみろよ」
「あれ?」

 首をかしげたアレクシアの背嚢を、レイモンドは苛立たしげに叩いた。

「笛!」

 とぼけたのではない。本当に忘れていたのだ。意識的に忘れようとしていたのかもしれない。山彦の笛はテドンでの一件以来、なるべく触らないようにしているから。

「え、吹くの?」
「それが一番手っ取り早いだろ」

 いいから早く吹けとせっつかれて、アレクシアは渋々山彦の笛を取り出して、躊躇い勝ちに息を吹き込んだ。
 山彦の笛は澄んだ音色を響かせて、今しもレイモンドが指差した方向へと流れていく。もしもそちらに人里があったならと、アレクシアは焦る気持ちそのままに駆け足で音色を追った。
 前しか見ていないアレクシアを、レイモンドは舌打ちして追い掛ける。笛の音を追い掛ける魔物がいないかと、回りの様子を探りながら。
 急に走り出したアレクシアとレイモンドの後を、ディクトールとリリアも慌てて追い掛けた。

「ちょ、ちょっと待って…!」

 ただでさえ疲れていた所に走らされて、リリアの息はすぐに上がった。しかし、脇腹を押さえて足を止めたリリアに先頭を走るアレクシアは気が付かず、その背を見つめながらリリアも置いていくわけにはいかないと、レイモンドとディクトールは無言で顔を見合わせた。頷き交わすでもなく、レイモンドは再び走りだし、ディクトールは来た道を引き返す。

「大丈夫?」

 言いながら、苦し気なリリアの肩に手を置いてホイミを唱える。お陰で少し楽になったと礼をしたリリアは、怪訝な顔で「いいの?」と問うた。ディクトールがアレクシアとレイモンドを二人きりにするのが意外だったのだ。

「良くはないよ」

 なんとも正直に、不機嫌そのものの表情でディクトールは答えた。

「うー、あー。……ごめん」
「君のせいじゃないさ」

 回りが見えていないアレクシアが悪いと、ディクトールは肩で大きなため息をついた。

「でも、急いで合流しないとね。風の駿馬、我が身に宿れ」

 アレクシアとレイモンドを二人きりにしたくないという私事は抜きにしても、魔物に囲まれたらただではすまない。

「まあ、ね」

 ディクトールのピオリムに身を委ね、アレクシアにボミオスをかければよかったのかと、ぽつりとリリアは呟いた。
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