ドラクエ3

□明けぬ空を背負って(本編3)
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 頭上を見上げても樹木の枝葉が視界を被う。空の色さえ確認出来ない。
 いつかもこんな深い森の中を歩いたなと、アレクシアはふふりと笑った。あの時はレイモンドが一緒で、レイモンドの魔法のお陰で迷うことはなかったが、今回は大いに迷う危険がある。
 アレクシアは初め、ルーラでセイのいる港町に行こうとしたのだが、どうにも港町のイメージがうまく描けずあきらめた。

(みんなは、どうしているだろう?)

 森の中を歩き始めて半刻は経つだろうか。レイモンド達が気付いてくれればと、定期的に空へ向けてギラを飛ばしているが、応えるものはない。四度目のギラを放った後、アレクシアはある可能性に思い至り悪寒を覚えた。
 何もギラの閃光に引かれてやって来るのが、仲間達ばかりとは限らない。
 ガサリと草木を掻き分けながら何かが近付いてくる。動物ではない。動物なら、こんな風にあからさまな物音などたてないものだ。
 足音からして二足歩行。
 レイモンド達だろうか?
 いや違う。気配は5つ。足音の間隔からして全員が大人の男だと思われる。人に近い形をした魔物か、野党の類いだろうか。
 いつでも逃げ出せるように周囲を確認し身構える。武器もない、病み上がりの不利な状況で、一人で、どこまでやれるだろう?
 膝に力を込めた時だ。繁みから足音の主が姿を現した。
 思った通り、武装した男が5人。アレクシアが居るとは思わなかったのだろう。男たちは驚いて動きを止めた。これだけで、男達が素人だと知れる。アレクシアは僅に緊張を解くと、武器を持っていないことを示すためにゆっくりと両腕を開いた。

「魔物に襲われ、仲間とはぐれ迷っています。近くに町があるなら、案内してもらえませんか」

 特に声色は作らなかった。旅装故に男装に近い格好なのはこれまで通りだが、自然に振る舞ううちに、男扱いされることもなくなってきた。それはつまり、素のアレクシアが女性であるということの現れなのだが、アレクシア自身それを自覚してはいない。
 アレクシアの台詞に、男たちは顔を見合わせた。見たところ、武器も持たない娘が一人。怪しいと言えば怪しいが、小娘一人にたいしてこちらは武装した男が五人だ。何を恐れることがあるだろう。
 互いに同じ思いを瞳に見いだしたのだろう。男たちは頷きあうと、リーダーらしき男が一歩踏み出して、自分達がセイバークの住人であると告げた。

「セイバーク?」
「最近できた港町さ。実は呼び名もまだ仮名でね。ネオアリアハンとか、ウェストスーなんて名で呼ぶやつもいるが、俺は代表の名をとったこの呼び方が気に入っているんだ」

男の話にアレクシアが目を丸くしたのは言うまでもない。男の話は代表が如何に素晴らしい人物なのかに移っていたが、アレクシアにはそれどころではなかった。だから、男達の中に苦い顔をしたものがいたのにも気づかなかった。

「代表って、アリアハンのセイ?」

勢い込んで聞くアレクシアに、男は気圧されながらも頷いた。

「そうだよ。なんだお嬢ちゃん、知っているのかい?」

知っているも何もない。この男たちより余程長い付き合いだと、いってやりたい。

「わたし! そこにいく予定なんです!」

男は仲間と顔を見合わせ、それならば話が早いと快く同行を了承した。

「おい、勝手に…!」

セイを賛美しているときに苦い顔をしていた若い男が慌てたように異を唱えたが、「困っている女の子を見捨てるなんて男が廃る」というリーダー各の男の一言で押し黙った。
リーダー各の男は上機嫌で、アレクシアがどこから来たのか、セイとはどんな関係なのかと聞いてくる。詮索されている、というような印象は全くなく、聞いた側から忘れているという印象の男だった。アレクシアとセイのことを聞くよりは、自身の身の上を話すので忙しい。
騒がしく話す男の隣を適当に相槌を打って聞きながら、アレクシアは背後から漏れ聞こえてくる潜められた会話の方が気になっていた。

「知り合いだと…計画に……」
「小娘一人……心配いらない」
「巻き込む………」

(計画? 巻き込む?)

嫌な予感に首筋の毛が逆立つ。昨夜からの事があるから、嫌な方に考えてしまうのだ。この悪寒は、熱のせいだ。無理矢理にそう自分に言い聞かせて、アレクシアは足を進めた。
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