ドラクエ3

□明けぬ空を背負って(本編3)
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43ー3

固く、とはいかないが、レイモンドとディクトールが握手を交わした時だ。見張り台を掠めて赤い光が船の甲板を叩いた。ドォン、と大きな音を立てて船が揺れる。
はっと光が飛んできた方向を見れば、箒にまたがった魔法使いが舌打ちと共に逃げていくところだ。
レムオルで姿を消して近付き、不意をついたまではよかったが、レムオルと飛行呪文を維持したまま放ったメラミでは、狙いをつけることができなかったらしい。

「嘗めた真似を!」
「無駄だ。距離がありすぎる」

こちらもメラミをお返ししてやりたいところだが、ディクトールの指摘通り、いかんせん距離が開きすぎている。

「下を見てくる」
「ああ、俺はもう少し様子を見る」

言うが早いか、ディクトールは梯子を下りていく。レイモンドは〈鷹の目〉を唱えて、回りを探った。魔女が単独行動していることは少なく、使い魔なのか、飛竜やヘルコンドル等と出てくることが多いのだ。魔女同士で集団行動をとっていることもある。
先程逃がしてしまった魔女が、そのまま逃げてくれればそれに越したことはないが、仲間を引き連れて戻ってくるかもしれない。
そうして大抵の場合、嫌な予感というのは当たるものだ。
レイモンドは大きく舌打ちすると、ほとんど飛ぶように見張り台を下りた。
甲板に着地するのと同時に、小火を消し終えたらしいディクトールが何事かと駆け寄ってくる。

「団体さんのお出ましだ」
「リリアを呼んでくる」
「ああ。頼む」

異常を知らせるディクトールが船室に向かう階段にたどり着いた頃には、空飛ぶ魔物の群れは個体の識別ができるくらいまで近づいていた。

「多いな…」

小さく舌打ちしたレイモンドは、腰に手を伸ばして顔をしかめた。油断もいいところだ。そこにはアサシンダガーがひとつぶら下がっているだけで、主武器である鋼の長剣は船室に置いてある。さすがに怪鳥や空飛ぶ敵を、ダガー一本で相手にできるとは思わない。鎧も着けていないし、空から降ってくるギラやメラといった火の玉をかわせば船が燃え上がる。多勢に無勢はもとより、不利な条件ばかりだ。
それでも素手よりはましかとアサシンダガーを構えて、レイモンドは空をにらみつけた。
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