ドラクエ3

□明けぬ空を背負って(本編3)
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不意に強く吹いた海風に、飛ばされそうになった外套を慌てて引き寄せて、レイモンドは外套に身を包み直した。
空を見上げれば快晴。雲のない日は風がどこまでも高く吹くから寒いのだと、昔どこかで聞いたような気がする。
これだけ寒ければ、風邪くらい引くよな。昨夜は特に冷えたし、あいつは汗をきちんと拭わなかったから。汗が冷えるほどに、長く引き留めて話し込んでいただろうか。もう熱は下がっただろうか。様子を見にいこうか。看病は誰がしているのだろう。

「ちっ!」

熱で朦朧としたアレクシアの側にディクトールがいる姿を想像して、嫌な気分になった。そして、そんなことを気にかけている自分にも。

「ああ! もう!」

がしがしと髪の毛をかき回した時、人の気配が近づくのに気づいて、レイモンドは見張り台から身を乗り出した。
まだ交代の時間ではないと思うが。
梯子を昇ってくる神官にてを貸してやると、顔に出ていたのだろう。ディクトールが苦笑した。

「少し話したくて。アルはリリアに任せて大丈夫。ただの風邪だ」
「ふぅん…」

聞いてねぇよ、と突っぱねるのもおかしな話だろうと、レイモンドは気のない返事だけして、二人は背中合わせに見張り台に立った。

「僕は君のことが好きじゃない」

話の切り口としてどうなんだと、レイモンドは苦い顔付きになる。そんなことを言うためだけにわざわざこんなところまで来はしないだろうから、ああ、と適当に頷いて、先を促した。

「はっきりいって、胡散臭いやつだと思ってるよ。早く船を降りてくれってね」

(この野郎…)

オリビアの岬の呪いを解いて、サイモンの弔いもしたのだから、確かにレイモンドにはアレクシア達と同行する理由はもうないのだ。船に乗る理由にしてきたものは、果たしてしまったのだから。
ただ、最近では、船に乗る理由など、もう必要ないと思っていた。自分達は、同じ目的を持った仲間だと。
レイモンドだとてディクトールを特に好いてはいないが、こんな風に面と向かって、仲間であることを否定されるのは正直面白くない。
不満が表に出ていたのだろう。背中で、ディクトールが笑った気配がした。
「だけどそうも言っていられないからさ」

狭い見張り台だ。相手が振り向いたのは直ぐにわかる。ん、と出された手を、レイモンドは訝しげに眺め、ディクトールは苦笑して「和解の握手だよ」とレイモンドにも手を出すように求めた。

「アルと僕とセイで始めた旅だけど」

アルと僕、の所だけ妙に力が込もっている。

「今は状況が違う。アルの目的の為には、君の力が必要だ」

セイがいないからだと、ディクトールは言っている。アレクシアは、セイを迎えにいくつもりだが、セイがどんな気持ちでパーティーを離れたか、ディクトールもレイモンドも痛いほど理解しているつもりだ。アレクシアだって分かってはいるのだろう。ただ、理屈ではないのだ。感情が理解を拒むのだろう。

(アレクの目的、ね…)

ディクトールが本人に聞いたとは思えない。ディクトール が思っている事が、アレクシアの本当に思っている事とイコールではないにしても、当面、バラモスを倒すということにおいて、一同の目的は一致しているはずだ。

「まぁ、そういうことなら」

レイモンドの目的は、自分が何者であるかを知ることだ。恐らく、否間違いなく、アレクシアの目的も同じはずだ。それをディクトールに言うつもりはない。多少の意地悪心が働いているかもしれない。
レイモンドは勿体振った動作で体ごと向き直り、ディクトールの手を取った。
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