ドラクエ3

□明けぬ空を背負って(本編3)
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 グリーンランドは夏が来ても雪と氷が表層を被っているという。もともと大陸自体が大きな氷の塊で出来ているという噂もあるくらいだ。グリーンランドという名前から連想される緑などどこにもない。見る限り一面真っ白な雪、雪、雪。
 以前一度来ているとはいえ、目印も何もない真っ白な世界に放り出されたアレクシア達四人は、レイモンドの魔法をたよりに自称コレクターの老人を訪ねた。
 人など滅多に訪ねてこないだろうに、老人はきれいさっぱり四人の若者の事を忘れており、老人にしてみたら、兼ねてから手にいれたいと思っていた変化の杖と、くるくる回るだけの骨を象った飾りを交換してくれというアレクシア達の要求はとんでもない好条件だっただろう。物好きな若者の気が変わる前にと、老人はそそくさと物々交換に応じた。
 アレクシア達が別れを告げるや、小屋から出ていくのを待てないとばかりに老人は変化の杖を一振り。背後に生じた魔力の渦に、恐る恐る振り返ったリリアは、軽はずみに振り返った自分を呪うことになる。

「変態だわ…」

 ぼそりと呟いたリリアの顔色と、同時に上がった若い女の叫声に、アレクシアは振り返ることを固く自分に戒めて、足早に老人の小屋を後にした。

「二つの点は一つの点に。時空の守護者よ。我をかの地へと導け。ルーラ」

 四人が四人とも同じ気持ちでいたのだろう。小屋を出るなりルーラを唱えたリリアに、誰も異を唱えなかった。



 光の中から突如帰還を果たした四人に、船で待っていたマルロイは流石に面喰らったが、多くは聞かずに船乗りの骨を受け取った。操舵席の横に船乗りの骨を吊るしてやると、骨はくるくると回ったあとで、ぴたりとある一点を指して止まった。それきりどんなに揺らしても、また同じ方角を指している。

「こいつは便利だ」

 これさえあれば星の見えない夜も迷うことはないということだ。レイモンドは感心して口笛を吹いたが、マルロイは「ばかやろう」とその後頭部を叩いた。

「こいつが指すのは残りの骨の在処だ。幽霊船に祟られるという噂もある」

 エリックを乗せた船は航海半ばで難破、遭難し、強い未練を残した彼等は幽霊船としてこの海のどこかをさ迷っている。現世と幽世との境を。
 この世であってこの世ではない海をさ迷う幽霊船と、この世を結ぶのがこの「船乗りの骨」。船乗りの骨を持つ船と幽霊船は引き寄せ会い、隔離世を共にさ迷うことになるという。

「ぞっとしないな」

 もともとこの手の話が得意ではないアレクシアは、本当に寒気を覚えているかのように青ざめた顔をひきつらせている。
 セイが居たなら、「怖いならオレの胸に飛び込んでおいで」などと冗談紛いにちょっかいをかけて、アレクシアの恐怖を吹き飛ばしてくれただろう。レイモンドにもディクトールにも、セイの真似は出来そうにない。
 ディクトールは神官らしく「さ迷える魂を浄化してやろう」とアレクシアの肩に手を置き、レイモンドは「魔物も幽霊も似たようなもんだろ」と軽く笑った。
 ともあれ、噂が本当なら、幽霊船はこちらに向かって舵を取る筈だ。そう遠くないうちに遭遇するだろうが、それがいつになるかはわからない。
 船乗り仲間から集めた、これまでの幽霊船目撃情報やオリビアの伝説を総合して、アレクシア達は船をロマリア沖に進めることに決めた。
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