ドラクエ3

□明けぬ空を背負って(本編3)
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 街中の人間に、といっても言い過ぎではないだろう。サマンオサからの旅立ちは、これまでのどの港よりも大勢の人々に見送られてのものになった。
 海洋国ポルトガの最新造船を、ポルトガ王の許しもなく外洋船のノウハウ等なにも持たぬサマンオサで整備することに一抹の不安がなかったわけではないが、あくまでこの船は我々が王より譲り受けたものだと割り切って整備を受けた。船底の牡蠣を落とし、傷んだロープやマスト、舳先の板の修繕補修の指揮を執ったのは当然ながらマルロイで、港で手を降る人々の最前列にはマルロイを師と慕う工夫達の男泣きする姿が伺え、アレクシアたちを辟易させた。
 積み荷を満載したキャラベル・ラティーナを、マルロイは岸を辛うじて視認できる距離に北上させた。
 薄く水面を被う氷は北へ向かうほどに厚くなり、元が解氷船ではないキャラベル・ラティーナは時折船脚を取られたが、その度魔法使い総出でベギラマを放って強引に道を作ってきた。
 そうして北の海にも春風が吹く頃、アレクシア達はセイを残してきた開拓村に辿り着いたのである。


 小舟を浅瀬に下ろして、記憶を頼りにあの密林の中の掘っ建て小屋を探すつもりでいた4人は、浜辺に着くなりあんぐりと口を開けた。
 漁船を係留するだけにしては立派過ぎる船着き場。周りでは荷を運ぶ男達が忙しく働いている。噂には聞いていたが、目の当たりにしてもまだ信じられないという思いの方が大きい。あれからまだ、1年も経っていないのだ。

「見掛けない顔だな」

 小舟の係留にやってきた男がにこやかを装って注意深くアレクシアたちの様子を伺っている。海の男は気性の粗いものが多いが、この男のそれは、ただの船乗りとは思えなかった。

「傭兵希望か?」

 目敏いな、と内心感心しつつ、レイモンドは係留を手伝うために海水に膝まで浸かりながら「違う」と首を振った。

「知人を訪ねてきた。セイと言うんだが、あんた知って、…いるみたいだな」
「知っているも何も! なんだ、あんたら、セイ様の知り合いか?」

「さまぁ?」と異口同音に声をあげて、アレクシア達は首をかしげた。
 そこで男はあることに気付いたらしく、4人組をしげしげと見回した後で、間違いねぇ! とアレクシアを指差した。

「どっかで見たと思ったら、あんた、うちの頭と盃を交わしたっていう女偉丈夫だ!」
「は?」

 アレクシアは思いきり怪訝そうな顔をしたが、盃を交わした相手と言えば一人しかいない。

「もしかして、ルザミのカテリーナの?」

 ルザミと言えば海賊、海賊と言えばルザミだ。声をひそめたアレクシアに、男は波に負けじと大きな声で

「そうさ! おれ達ゃ、七つの海を航るルザミ海賊団よ!」

 と胸を叩いた。


 海賊と仲間だと、大きな声で宣言されたアレクシア達だが、予想に反して歓迎された。よくよく周りを見てみれば、船着き場にいるのはどれも脛に傷持つ男ばかりで、聞けばセイの呼び掛けで集まったという。セイはルザミのカテリーナに掛け合って、船と働き手を集めていた。海賊ではなく、真っ当な職を求めてやってきた者も居れば、ルザミで僅かな土地と食料にしがみつき、ひっそり生きることに嫌気が差してやってきた者も居る。
 初めのうちは、それこそ小さな集落だったそうだ。
 それをセイが人を集め、土地を与え、異国の品を取り扱ううちに人を呼び、開拓地はたちまち大きな町に発展した。
 漁と僅かな畑作で生計を立てていたスーの人々にとって、セイの造った町は別世界のように映っただろう。

「本当に、セイの旦那には感謝してる。あの人のお陰で、楽な暮らしが送れんだ」

 そう言って鼻をすすった海賊上がりの男がアレクシア達を案内したのは、石造りの立派な建物で、密林の中の建造物にはいっそ不似合いなものだたった。

「これ…」

 城かと目を疑うなるような立派で巨大な建物。これがセイの居宅だという。
 入口には人相の悪い、武装した男が二人立っており、屋敷の前を行き来する者を威嚇していた。

「門番ってわけだ」
「何様になったんだ、あいつ…」

 呆れるアレクシア達をよそに、門番らしき男に海賊上がりが事情を説明している。その様子を見てアレクシアは、幼馴染みに会うのに取り次ぎが必要なのかと、ダーマでも感じた憤慨を感じていた。

「こいつらが?」
「最近多いんだよなぁ。セイの旦那の知り合いだって、金の無心にくる乞食が」

 疑り、小バカにした視線に、リリアが食って掛かろうと前に出る。細い肩をつかんで止めたのはレイモンドだった。

「取り次ぐ取り次がないはあんたらの自由だが、アリアハンの勇者アレクシアを門前払いしたなんて後でセイに知れてみろ。大変なことになると思うぜ?」

 アレクシアの名前は、オルテガ程に広まってはいない。それでもこの町に居るものなら、セイの素性くらいは知っているだろう。思った通り、門番二人はどうしたものかと顔を見合わせ、「伝えるだけなら」と一人が中に引っ込んだ。

「武器は預かる」

 一人残された門番が、武装した4人に恐れを感じたか、さも取って付けたように武装解除を求めた。アレクシアとレイモンドは顔を見合わせて、素直に腰の長剣を外したが、例え素手でもこの男に遅れはとるまい。

「汚すなよ」

 長剣2本と槍1本。レイモンドに至ってはチェーンクロスもぶら下げていたので、次々装備を渡された男は重さに足をよろけさせた。

「盾も預けようか?」

 とレイモンドが人の悪い笑みを浮かべた所に、屋敷から懐かしい人物の声が聞こえた。
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