SW冒険の記録

□はじめに
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幸運なやつらだと、馴染みの店の面々は時に誇らしく笑いながら、時に妬みを滲ませて、彼らのことを語る。

アレクラスト大陸最大の都市オランには、古代王国の主要都市が近いという地理的要件もあり、冒険者と言われるならず者が集まった。

生まれた町や村をやむ無く離れなければならなかった事情が有るもの、継ぐ領地がなかった部屋住みの貴族の次男坊以下、一攫千金や名声を求めて来たもの。冒険者となる者の理由は皆それぞれ様々だが、大抵は社会不適合者とも言うべき変わり者の集まりである。そんな彼らが集まる酒場や宿に、一般人が寄り付くはずもなく、自然、そんな店は冒険者相手専用の店へと変化していく。食事や酒、宿の提供、日用品の売買、仕事の斡旋や仲介。そんなものを一手に引き受けるようになるのだ。そうしてそんな店を、誰がいい始めたのか「冒険者の店」と呼ぶ。

彼らが出会ったのもそんな冒険者の店のひとつだ。

小綺麗な格好をした黒髪の少年。金属鎧とロングソードは新品で、鴨が葱を背負ってきた、という印象を店主は抱いたという。明らかに場違いと思える生まれも育ちも良さそうなその少年は、物珍しげに店の扉口をくぐった。

 あとからついてきたのも少年で、やはり真新しい皮鎧を身につけ、手には魔術師の学院生である証の杖を持っている。体格だけ見れば、後から来た少年の方が御しやすそうに見えるが、その目付きは下町育ちの悪ガキそのものだ。

 金属鎧の少年はにこやかに、皮鎧の少年は周囲を威嚇しながら、店のなかに入ってきた。
 テーブルを囲む客に人懐っこい笑みで会釈をしながら、金属鎧の少年がカウンターで帳簿をつけている店主に声をかける。

「ご亭主」

 場所に似合わない丁寧な呼びかけに、カウンターでちびちびとカップを舐めていた赤毛の少年が吹き出した。皮鎧の少年は赤毛の少年を睨んだが、金属鎧の方は気にした様子もない。

「僕たちにも出来る仕事はありませんか」
「見ない顔だな」
「はい。この辺りに来たのは今日初めてです」
「剣は使えるのか。実際に戦った経験は?」
「実戦に出たことはありませんが、昨年の模擬試合では入賞しました。こちらのカルスは魔術学院の修了証をもっています」

 店主はふぅんと二人を観察すると、赤毛の少年と店の隅にいる二人を手招いた。

「半人前同士でちょうどよかろう。お前ら前衛を探していたろ?」

 手招かれてやって来たのは一見子供にしか見えない二人組だったが、髪の毛から覗くツンと尖った耳から、二人が妖精なのだと分かった。

「あたしはエアリエル」

 にこやかに握手を求められた金属鎧の少年は、差し出された手の細さ、白さ、そして少女の繊細さに思わずぼけっと少女に見とれた。

「俺はカルス。こっちはジェイムズ」
「よろしく。ジムでいい」

 皮鎧の少年が、ジムと呼ばれた金属鎧の少年の後ろから少女の手を取り挨拶をしたあとで、金属鎧の少年は取り繕うように少女の手を取った。

「よろしくカルス、ジム」
「おいらはダニエル」

 丸っこい顔に可愛らしい笑みを浮かべて小妖精が自己紹介をする。

「おいらはグラスランナーで、もちろんここの盗賊ギルドに所属してる」

 草原から街へと住処を変えたこの妖精族は、生まれつきの手先の器用さ、素早さ、好奇心の強さから、スリや密偵を生業にするものがほとんどだ。グラスランナーを見たら盗賊と思え。これはアレクラスト大陸共通認識である。

「マジか? 本気でこの素人坊っちゃんと組むのかよ?」
「ルー。失礼よ」

 嘲笑う風の赤毛の少年は声変わりすらしていない。線も細いし、恐らくジェイムズやカルスより2つ、3つ年下だ。

「この子はアルレーネ」
「アルレーネ?」
「こう見えて女の子よ」
「へえ…」

 髪も短いし顔付きも態度も剣呑で言葉遣いも汚い。すっかり男の子だと思っていた。いや、女の子だと言われてもとてもそうは見えない。しげしげと眺めてしまい、どうにもアルレーネの勘に障ったようだ。出会って物の数分でジェイムズはアルレーネに喧嘩を売られ、しかもそれを嬉々として買い取った。相手がどの程度の強さなのか知っておきたかったのもある。
 カルスには呆れられたが、店の裏で殴り合いをし、そのお陰でアルレーネとはすんなり打ち解けた。

「癒し手が居ないのは問題ね」

 二人の痣に潰した薬草を貼り付けてやりながら、エアリエルが溜め息をつく。

 包帯の具合を確かめて、礼を言って立ち上がろうとしたジェイムズに

「あ、待って」

とエアリエルは引き留めた。そして患部の頬にそっと手を触れて、ジェイムズの知らない言葉を唱える。
そのとたんに、ジンジンと痛んでいた頬から、本の少し痛みが引いた。心臓はどきんと口から飛び出しそうになったが。

「おまじないよ」

 と方目を瞑る。そのおまじないが精霊使いの妙技ーーそんな大袈裟なものではないとエアリエルには呆れられたがーーであると知るのは暫くたってからのことである。
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