◆ときめきトゥナイト

□お題外2
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夏の終わりに

 小6の夏、お化けを見たなんて、中学に入ったら武勇談じゃなくて恥ずかしいエピソードになってしまう。夢見がちな奴だと、妙な言いがかりを付けられるのはごめんだ。
 噂によると、お化け屋敷には現在人が住んでいるらしい。
 もしかしたら、小6の時も人が住んでいたのかもしれない。
 中学から隣町に引っ越してしまったので、詳しいことは分からないのだが。

 あれから10年。
 久しぶりにあの頃の仲間とも会うのだし、真相を確かめてみるのもいいかもしれない。

 たかが電車で一駅なのに、否だからこそ、12歳まで住んでいたこの街に来るのは0年振りだ。

「てっちゃん!」

 同窓会会場の前で、大きく手を振るメガネが、一瞬誰だかわからない。

「その呼び方やめれ」

 メガネは…そうだ。鷹羽だ。

「久しぶり。みんな変わんねーな」
「いや、お前誰だよ!」

 だはは、と笑って背中を叩いてくるのこのヒゲデブは誰だ。ケンジか? 苗字が思い出せん。

「今日って、どんくらい集まんの? 幹事だれだっけ」
「幹事は今野と洋介だろ。男子の会費が多いって、納得いかねー。おい、真壁、お前が出せよ!」

 真壁?

「ふっざけんな。んな金あるか」
「稼いでるだろー?」
「所得税だの固定資産税だのとられんのー!」

 ああ、こいつは変わってない。
 一時期、死んだなんて噂が立ってたけど、生きてた。しかも最近急にスポーツ紙にのっかてるし。

「よぉ」
「うす」

 握手代わりに合わせた拳は固くて、新聞に載ってたチャンピオンが同級生の真壁俊なんだって納得した。
 きっと、今日の主役はこいつだ。
 あの、小6の2学期みたいに。

「哲、知ってるか? 真壁、結婚したんだって」

 は? 知らん。
 おい! 聞いてねーぞ!

「しかも、相手は江藤さん」
「鷹羽、こいつ中学違うから知らねーよ」
「あれ、そうだっけ。ま、とにかく美人の奥さん。リア充爆発しろ!」

 まだ飲んでないのに酔っぱらってる鷹羽を押しのける。

「結婚〜? 聞いてないんだけど」

 ちょっと恨みがましくなるのは仕方ない。親友だと思っていたのは、こっちだけか?

「すまん。中学までの連絡先、ごたごたしてたもんで失くしちゃってな」

 後で聞いた話。死亡説が出たのは、中3の終わりごろに一家で失踪したからだそうだ。込み入った話らしく、真壁も言葉を濁したし、詳細は誰に聞いてもわからなかった。

「ま、こうして会えたし、よしってことで」
「よくねーよ」

 この落とし前はきっちりつけてもらわんと。今日はその美人の奥さんとやらを拝まねば。
 手の甲でびしっと突っ込みを入れると、真壁は「勘弁してくれ」と苦笑した。

「いや実は、あまりゆっくりもしてられなくて」
「あ? なんでだよ?」
「あー、うー、えーっと」
「?」

 唾を飲んで、ごほんと喉を鳴らして、それからようやく真壁は言った。らしくもなくもごもごと。

「嫁さん、一人にしておけないんだ。そのぅ、大事な時期なので…」
「大事?」

 ひたすら「?」を飛ばす俺の肩を、いつの間にやら近くで話を聞いていた女子の一人がどんっと叩いた。痛ぇな…。

「やだ! 出来ちゃった婚!? 見かけによらずやるぅ! おめでとう!」

 …あ。あー! そういうことか。

「いや、そういうわけではないんだが…。まぁ、うん。ども」

 へぇ、こいつって、テレヤサンなのね。
 知らなかった。小学生でそういう話はしないからなー。当たり前か。

「んじゃ、真壁。よけいにお祝いしなくちゃな」
「いや、いいよ。気持ちだけ…」
「祝わせろよ! 友達だろ。これ、俺の連絡先。お前のは?」

 春に決まったばかりの勤め先の名詞を突き付ける。

「…名刺なんか持ってねぇぞ」
「じゃあ、電話しろ」
「上からだな。気が向いたらな」

 ふん。笑いながら名刺をしまう、お前だって上からじゃねぇか。

 乾杯と担任の挨拶が済むと、真壁派宣言通り帰り支度を始めた。真壁のくせに車で帰るらしい。あーあ、呑ませて色々吐かせてやろうと思ったのに。何のために俺たちは成人してから集まったんだ?

 失礼しますと、先に退席する非礼を先生に詫びる。真壁の癖にー!
大人になったねぇ。俊くん。
その俊くんが、不意にこちらを向いた。

「中村!」

ひゅんっ、と風を切って飛んできたものをキャッチ。俺の反射神経も捨てたもんじゃないな。あいつのコントロールがいいだけか?

「お化けのしるし」
「は?」
「勝負はおれの勝ちな」

に、っと笑って、今度こそ本当に真壁は帰った。
残された俺達は訳がわからない。とりあえずビールを飲んで、料理をつついて、あいつが投げたものを片手間に開いてみる。
ペーパーナプキンの中身。ごみだったら怒る……箸置き、だな。それも、この会場にあったやつ。
訳がわからん。
これのどこがお化けの印?

「てっちゃん」

放り投げたペーパーナプキンを、きれいに広げて寄越したのは鷹羽だ。

「ん?」

ペーパーナプキンには、きたねぇ走り書きがしてあった。

「読めねぇよ」

毒づきながらも笑みが浮かぶ。俺は大事に、その走り書きをポケットにしまった。とりあえず、明日はデパートに行こう。出産祝いなんか何を贈ればいいのかわからないから、どっかの部族の魔除けのお面とか、変なもんを贈ろう。そんで、それをネタに今度こそ呑もう。
な? 親友。



20130830

拍手おまけにしては長かった。
久々のときめきですが、いかがでしょう?
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