◆ときめきトゥナイト

□お題外2
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冬の朝

吐く息が白く凍る朝。
まだ夜も明けきらぬ中、風を切って走るのは気分が良い。学生時代からの習慣で、これだけは今も続いている。
ロードワークのコースには誘惑も多く、24時間営業のコンビニエンスストア等はその最たるものだ。
湯気をあげる肉まんや、甘いココア。日頃控えている炭水化物にもだが、何よりこの寒さをしのげる温もりにひかれる。



今日も軽快な音を上げて自動ドアが開くと、愛想の欠片もないアルバイトが「いらっしゃいませ」と形ばかりの挨拶をよこす。
品だしをしていたらしい男の顔には、実のところ見覚えがあって、高校時代最後の試合で見かけたことがあった。直接対戦した訳でもないこの選手を、なぜ覚えていたかというと、決勝まで進んだ彼の応援団の異様な盛り上がりと、その後の彼の活躍が目覚ましかった為である。
最近ではメディアでその名前を聞くことも多くなったように思う。
無表情に品だしをする彼にしてみれば、こちらの顔など覚えていないだろうが。
毎朝のロードワークでこのコンビニエンスストアに立ち寄るのは、何も彼に自分を認知してほしいからではない。
たまたまロードワークコースにあった店で、朝食を買うのに丁度よかったからだ。


チャイムが客の来店を告げる。期待に胸が高鳴るのがわかった。
自動ドアが開いて現れたのは――、彼女だ!
白いロングコートに真っ黒な長い髪。着物で雪山に現れたら雪女かと思うかもしれない。それほどに肌は白く、目を奪われずにいられない。いつ見ても、きれいだと、見とれてしまう。
彼女はいつもきれいな笑顔で、すれ違う客や店員に会釈をする。あの愛想のないアルバイトにも。
楽しそうに店内を一回りした後で、レジ横のストッカーからミルクティーを取り出すのが彼女のいつものパターン。
レジで店員と二、三会話し、袋はいりません、と店を出る。ミルクティーはすぐ飲むのではなく、カイロ代わりに彼女の手や頬を温める。
ミルクティー片手にほぅ、と白い息を丸く吐く。
その無垢な仕草に、幸せそうな微笑みに、またひとつ胸が高鳴る。
いつも声をかけようと思い、またいつかと先延ばしにする。
結局今日も声をかけられずに、牛乳とおにぎりの入ったレジ袋をもって店を出る。
また明日も、会えるだろうか?
明日会えたら、今度こそ声をかけよう。






おわり
20131205
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