◆ときめきトゥナイト

□ときめき お題外
8ページ/50ページ

素直に

 兄弟仲がいいのは知ってたわよ。
 そりゃあ、わたしだって、レオンの事はかわいいと思うし?
 卓が愛良を可愛がるのは当然だと思うわ。
 でも、ちょっと…
 ものには限度ってものがあるでしょう?

 人間界ではこれが普通だと言われてしまえば、それで終わりだけど。
 わたしがいくら人間界に疎いとは言っても、それは「普通」とは言わないと思うわ。
 小さい子供じゃないのよ?
 いいえ。
 たとえばわたしが子供の姿になったって、あなたはそんな風に手をひいてはくれないでしょうね。

 …なによ。
 卓のバカ!



「なぁ?」

 ……

「おい」

 ……

「おいったら!」
「なによ!?」

 気安く呼ばないでよね!
 だいたい、用があるならきちんと人の名前を呼ぶべきじゃなくって?
 「なぁ」とか「おい」とか、失礼よ!

「…なにか、怒って、る?」
「怒ってないわ」
「怒ってるだろ?」
「怒ってないわよ!」

 どうしてわたしが怒らなくちゃならないのかしら?
 ほほほ。まぁったく身に覚えがないわね。

「嘘だ。怒ってるじゃないか」

 ぱしり

 気安く触らないで。
 このわたしを、誰だと思っているの。

「ココ」

 ようやく名前をよんだわね。
 そうよ。わたしはココ・ティナ・ウォーレンサー。魔界の第一王女。
 むやみに怒ったり、小事にこだわったりしないの。だって王女様なんだから。

「ココ」

 そ、そんな声出したって、怖くないんだから…!

「な、なによ!」

 あ。溜息。
 どうして卓がそんな風に溜息なんかつくのよ?
 呆れてるのはこっちのほうだわ。

「おれ、なんかしたか?」

 知らないわ。
 もう、溜息つかないでったら!

「謝るから、機嫌直せよ」

 何が悪いのかも判らないのに謝るの?
 随分安いのね。
 それになぁに? 直せよ、ですって? それで謝っているつもり?

「おまえが何もしゃべらないで、判るわけないだろ!」

 !!

「あ…。ごめん。喧嘩したいわけじゃないんだ。な? 頼むから、普通に話ししようぜ?」

 ……

「泣くなよ」

 泣いてなんかない!

 急に優しくするから、調子が狂っただけよ!
 強く引かれたわけでもないのに、すとんとソファに座らされて、まるで小さな子供にでもするように、よしよしと髪を撫でられた。
 卓の胸に押し当てられた額が熱いの。
 ひとに、髪を梳かれるのって、気持ちがいいものなのね。
 まるきり子ども扱いなのに、頭を撫でられるのも嫌じゃないの。
 なぜかしら?
 安心する…

「…先月は、サンキュ」

 …先月?
 …あ、ああ。あれ。
 思い出すと頬が熱くなるわ。

 なによ。
 改まって。
 おかしな卓。

「明日さ、部活、ないんだ」

 そう。

「だから、さ」

 うん?
 なぁに?
 卓ったら、随分緊張してる。
 ふふ、変なの。

「出かけ、ないか?」

 ・・・・・・・・え?

 思わず顔を上げていた。
 目が合うと、卓は赤い顔して顔を逸らす。

「暇、だろ?」
「う、ええ。あ、どうかしら…?」

 だって急に言われても困るわ。
 明日もおば様のお手伝いをするし、お天気ならシーツやカーテンを洗いたいもの。

「なんか用でもあるのかよ?」
「う、ん?」
「はっきりしねぇな。なんだよ? おれと出かけるのは嫌か?」
「違! 違うわ! そんな事ない!」

 あ…っと。

「じゃあ、行こうぜ」
「ええ」

 思わず、頷いちゃったけど。
 満足そうっていうか、勝ち誇ったようなその顔。気に入らないわ…
 だって。なんだか、こう。
 してやられた、って気分になるじゃない?

「どこ行きたいか、考えとけよ」

 ぽんっと頭をひと撫でして、卓はリビングを出て行った。満足そうな背中…。
 誘ったくせに行き先はわたし任せ?
 なにそれ。
 バカじゃないの?

 悔しいのに、納得できないのに、なぜか口元が、笑みを刻むのを止められなかった。



===============
で、この数日後お出かけして、そのまた後日談がこれ
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ