◆ときめきトゥナイト

□ときめき お題外
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June bride

 チャペルの鐘が鳴り、ライスシャワーの中、白いドレスとタキシード姿の新郎新婦が、はにかみながら人々の祝福を受けている。
 出掛けた先のチャペルで見掛けた光景に、蘭世はほぅ、と感嘆の息をついた。
 隣には、蘭世の蘭世らしい反応と妄想に、苦笑いの俊がいる。

「すてきー」

 蘭世の頭の中では、遠くに見える新郎新婦が、自分達の姿に置き換わったビジョンが再生されている。

「結婚式かぁ…」

 ちらりと俊を見上げて、蘭世は先程とはちがう種類の溜息を吐いた。

(真壁くん、嫌がるかな…? 嫌よね。きっと)

 自分の想像で悲しくなって、項垂れる蘭世に俊は、眉尻を下げて苦笑する。ご明察の通りだ。結婚式なんて、やりたいと思ったことは一度足りとてない。
 しかし

「なんでこんな雨ばっかりの時期が、結婚式のシーズンなんだ?」

 不意に頭をくしゃりと撫でられて、蘭世は一瞬自分が話し掛けられていることが解らず、反応が遅れた。

「へっ!? あ、あのっ」

 頭の上に乗った手も、慌てる蘭世をおかしそうに見詰める瞳も、なにもかもが蘭世の頭に血を上らせる。
 きっと気付いていないのだ。俊は今、自分がどんなに優しい瞳で蘭世を見ているのかに。

「ええっとね、6月の花嫁は幸せになるんだって。なんでかは知らないけど」
「知らないのかよ」

 ぷっと吹き出す俊に、蘭世はだってぇ〜と口を尖らせた。

「でも…」

 すぐさま機嫌が直るのは、蘭世の美点のひとつだろう。
 羨望の眼差しで、蘭世は再びチャペルへ視線を飛ばす。

「何月だって幸せだよ。好きな人と結婚できるんだもん」

 ねっ、と同意を求められて、今度は俊が返答に詰まった。真っ赤な顔を蘭世から背けて、お決まりの肯定してるのか否定しているのかよくわからない曖昧な頷きを返す。

(チクショウ。かわいいじゃねーか)

 時折、閉じ込めておきたくなるくらい、きらきらした笑顔を見せる蘭世にいつまでも慣れない。見るたびどぎまぎして、そのたび彼女を好きになるのだ。本人には、口が裂けても言えないが。
 言えないからせめて、別のことは言ってやろうと決めて、頭の中で言葉を選ぶ。
 思い付いた言葉を実際口にしている自分を想像しては、恥ずかしくなって打ち消すという行為を繰り返した。
 その間中、俊は蘭世同様チャペルを見ていた。幸せそうな新婦が見える。不意に新婦に、蘭世の姿が重なった。勿論隣の男は、俊自身でなくてはならない。

「そうだな」
「えっ?」

 不思議そうな表情で俊を見る蘭世の額を人差し指で軽く弾いて、俊は90度向きを変えた。

「ま、『いつか』、な」

 チャペルに背中を向けて歩き出す。
 約束した『いつか』は近い将来。結婚式なんてやらなくても、二人一緒にいられるならそれでいいと思っていた。結婚式も、蘭世が望むならば仕方ない。してもいいか、くらいには思っていた。
 けれど今は、少し見解が異なる。

(おれが、見てみたいから)

 幸せそうな蘭世の笑顔を。幸福に泣くであろう、甘い涙を。

 そしてその隣で、蘭世以上に幸福な男の顔を。

「待ってよ! 真壁くーん!」

 振り返る。必死に俊の後を追いかけてくる蘭世を見るのは、嫌いじゃない。

(ああ、でも…)

 きっと今までで一番綺麗な彼女を、他人に見せるのは癪だな、などと、また蘭世に言えない感想を、俊は胸に抱くのだった。


20120613
 
6月の拍手おまけでした
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