◆ときめきトゥナイト

□ときめき お題外
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恋する乙女!!

 どこのお店にも大抵ある。
 主にピンク色で占められた特設コーナー。
 そう! 女の子ならば気にならないわけがない、バレンタインデー!
 あげる人がいようがいまいが、それが本命であろうがなかろうが、なんだか妙に気になっちゃうのだ。
 ちなみに、黒山の人だかりができている特設コーナーを遠巻きにしているあたしにだって、チョコをあげたい男の人くらい、いる。
 できれば、きれいにラッピングした手作りチョコを贈りたいんだけど、女の子にお持てになるお兄様が仰るには、手作りの食べ物ほど薄気味の悪いものはないそうだ。
 女の子の手作りチョコなんか、無条件でうれしいんだと思ってたよ。
 何が入ってるかわからないから、怖くて食べられないんだって。捨てるのも怖いので、お兄ちゃんはチョコ自体を受け取らない主義。
 新庄さんは、きっと、食べてくれると思うな…
 でも、もし、迷惑だったら・・・

 そう考えると怖くて、手作りチョコ、今年はやめたの。
 でもそうすると、予算がなぁ・・・
 高いものは買えないし、かといって安いものは義理っぽくてあげたくない。

 ほんと、どうしようかなぁ・・・

「あっ!」

 いろいろとチョコの箱を手にとって考えているうちに、ものすごくいいこと思いついちゃった!
 そうよ。そうだよ!
 作っている過程が不透明だから食べるのが怖いんでしょう?
 だったら、作っているところを見てもらえばいいのよ!
 あったしってばあったまいい!

 板チョコと生クリームを買い込んで、いそいそとスーパーを後にする。
 向かうのは、家ではなくて新庄さんのアパート!
 うふふ♪ 今日は家にいるって言ってたもんね! でもって、遊びに行ってもいい、って言われてるんだもーん!
 きゃー! 愛良ったらダイターン!
(拍手から引越)

恋する乙女!!!

 新庄さんちのお台所を借りてあたしは今チョコを刻んでいる。

「おい、手ぇ切るなよ」
「大丈夫だよ」

 覗き込まないでよ。気が散るでしょお。

 さ、次はこのチョコを溶かす!

「湯煎だよな。お湯はこっちだ」
「あっ新庄さんダメだよぅ! あたしがやるんだから!」

 もうっ。気になるのはわかるけどさぁ。少しは放っておいてよ。

「気が散るからっ! あっちいってて! レポート書くんじゃなかったのっ」

 ぐいっと背中を押して新庄さんを台所から追い出す。新庄さんはしぶしぶ机に向かった。
 よしっ。これで安心してチョコ作りを続けられるわ。
 えー、と…
 バターと生クリームを一緒に溶かして、チョコを溶かせばいいんだよね。
 あ、チョコのいいニオ〜イ

「つまみ食いダメだぞ」
「ぐっ」

 な、なんでわかったんだろ…

「し、してないもん!」
「ふーん…」

 さ、さて。オーブンは温まったかな〜。
 卵と、グラニュー糖と、薄力粉を混ぜて、っと。型に移したらあとは焼くだけ!

 何分だっけ…
 あ、9分だ。

 よしっ!

「新庄さん! 美味しいフォンダンショコラが出来るからね! 楽しみにしてて!」

 さ、お台所を片付けて、お茶の用意しよ〜っと♪

 なんてことをしてるうちに電子レンジからは甘〜い香が漂ってくる。
 鍋掴みを装備して、レンジの前に陣取るあたし。そのあたしの手から、にゅっと延びた新庄さんの大きな手が鍋掴みを奪っていった。

「あ」
「今年は苦くないといいな」
「も〜」

 確かに去年は少し焦がしちゃったんだよね。クラッシックショコラ。シュガーパウダーで焦げをごまかしたんだけど、見た目はごまかせても味は、ねぇ…?

「あたしがやるのにぃ」
「熱いから」

 うちより高い位置にある新庄さんちのレンジは、あたしには少し使いづらい。全部の家具が、新庄さんの高さに合わせてあるから当たり前か。

「じゃあ、あたし紅茶庵れるね」
「ああ。火傷するなよ」

 もうっ! さっきっから子供扱いばっかり!

 むくれてみた所で、あたしが中学生で新庄さんが大学生ってことは変わらないんだよね。
 新庄さんは危なげなくカップをお皿に乗せて運んでくる。テーブルの上だって、もうきちんと片付いていた。
 出来る大人、って感じ。

「ひっくり返すぞ。…よっ、と。…お、うまく出来てるんじゃないか?」
「ほんと!?」
「ああ。初めてにしちゃ上出来だろ」
「えへへ」

 ほめられちゃった。
 嬉しいなっ。
 こーゆーのも子供扱いなのかなぁ。
 でも、頭を撫でられるのは嫌いじゃない。

「ね、食べてみて。早くぅ」
「はいはい。実はおまえが食べたかっただけだろ?」
「ばれたか」

 柔らかいチョコ生地にフォークを入れるとトロリとチョコが流れ出す。
 うわぁい♪
 我ながらよく出来たな〜
 うふ♪ 美味しそ〜

 新城さんがフォンダンショコラを一匙すくって口に運ぶ。
 あー、だんだんどきどきしてきた。
 おいしいかな? ちゃんと出来たかな?

「………。愛良…」
「なに? 新城さん」
「そんなにじっと見られたら食いづらい」
「あっ、ごめんなさい…」

 だってぇ…

 新城さんはくすりとわらって

「ほら」
「え?」
「おすそ分け。いや、違うか。味見、かな」

 ほら、と目の前でフォークが揺れる。その向こうに、いたずらっぽく笑う大好きな新城さんの顔。

 う〜〜〜

 えいっ!

 目をつむってパクリ。
 これって、これって、間接キスってやつだよねぇぇぇぇ?
 ひゃ〜〜〜〜

「お味は如何ですか? お嬢さん」
「おいしぃ、です」

 多分。
 ほんとは味なんて、ぜんぜんわかんなかったよ。

「それはよかった」
「てか、作ったのあたしだよ?」

 くすくす笑う新城さんの顔が見れない。だって恥ずかし過ぎる。

「じゃ、来月はおれが何か作ってやるよ。おまえの好きなの」

 え?
 それって…

 上げた視線の先で、照れ臭そうな新城さんが笑ってた。
 んもう、チョコなんかより、全然甘いよ。





おもくそ拍手の続き
オチてない…
バレンタインとうに過ぎましたがね。
2010.2.28
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