◆ときめきトゥナイト
□ときめき お題外
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夢見る頃を過ぎてもAfter
俊は葛藤していた。
腕の中の華奢な少女が、17年来連れ添った妻蘭世だということは理解している。
しかし同時に、15歳の容姿をした妻にくちづけをせがまれるこの構図に、冷静な思考が警鐘を鳴らすのだ。
妻にキスして何が悪い?
いや、しかし相手は中学生で…
だけど蘭世なんだ。
だが息子より年下の女の子に手を出すなんて…
実際の時間にしてみれば数呼吸が、俊には何時間にも感じられた。
腕の中の少女が愛しい。何より愛しい。
そう、それは、かつての自分が触れたくて、結局触れることの叶わなかった15歳の彼女。
ぐあぁぁぁっ!!
チクショウ!
ぎゅっと(実際にはかなり控え目に)力を込めて抱きすくめ、自身の激情もその行為に込めるつもりで。
「犯罪者の気分」
自嘲の溜息と共に吐き出せば、きょとんと見詰める黒い双眸。その無垢な輝きに、賎しい自分を貫かれる。
「お前だってわかってるけど、なんかこう…」
がしがしと前髪をかき回して、俊は蘭世を離した。
「やっぱ、お前達はそっくりだよ」
そう。そっくりなのだ。
相手が蘭世だと分かっていても、どうしても、今朝いってらっしゃいと見送った、娘愛良の姿とだぶるのだ。
或は俊に娘がいなくて、娘が中学生でなかったなら、母親にそっくりでなかったなら、ここまで理性は頑張らなかったに違いない。
嘆息して階段を上がっていく、俊の葛藤を知ってか知らずか、蘭世はにんまり口角を引き上げ
広い背中にダイブした。
「ぱ〜ぱ♪ おんぶして♪」
「わ、ばか危ないだろ! って、だれがパパだ!」
まさか階段で振り落とすわけにも行かず、首にふふー♪ と上機嫌の蘭世をぶら下げていく。
「こら、首が絞まる」
蘭世の体もずるずると落ちていく。仕方なく、俊は蘭世を背負い直した。
蘭世のお尻を支えるべき手は、何処に添えていいのかわからない。
背中に、控え目に膨らんだ胸の感触を意識して、こめかみがドクドク言っているような気がする。
世界戦の前ですら、こんなに緊張しないのではないだろうか。
なんでもない風を装って、部屋のドアを開ける。そこは俊と蘭世の寝室。
「いい加減に下りろ」
ベットに背を向け手を離すと、油断していたのだろう。しがみつく手を緩めていた蘭世がどさりと落ちた。
「あぃた。ひど〜い。落とさなくてもいいじゃなぁい」
してやったりと笑った俊は、そこに広がる光景に「しまった」と内心臍を噛んだ。
綺麗に整えられたベットカバーに寄った皺。
そこに癖なく広がる長い黒髪。
乱れたスカートから肌けたみずみずしい脚。
どくり、だか、ごくりだか、音がした。
俊は己の浅はかさを呪った。己の軽率さに舌打ちした。
俊は再び葛藤する。
誘惑は、先程の比ではない。
「どうかした?」
ベットの上に居住まいを正し、ちょこりと正座した少女が問う。
絶妙な角度に傾けられた首が、凶悪なまでに愛らしい。
ああ、そうだ。こいつは…
全くの無意識に男のツボを突いてくる。
純粋無垢な瞳をして。
こんな危ないもんを放置してたのか…
15歳の頃の自分を連れて来て、懇々と説教してやりたい。
ただの人間だった自分に、何が出来たとも思えないし、素直に他人の言うことを聞く少年でないのは重々承知しているけれど。
「〜〜〜〜〜〜っ」
低く唸りながら、眉間のシワを揉みほぐす。
すっかり自分の考えに沈んでいたので、蘭世の動きに気付かなかった。
「ねぇ」
「わあっ」
蘭世がベットに立ち上がると、俊と目線が揃う。にょっきり両手を肩に投げ出され、触れられたところから凍り付きそうだ。
「着替えないの?」
息が掛かりそうな程近くで、瞳を覗き込まないでほしい。
蘭世に免疫が出来たって、15歳の蘭世は未知の世界だ。
カチコチに固まった体とは裏腹に、心臓はばくばくお湯を沸かしそうな程頑張っている。
「ねえ、真壁くん?」
目の前でさらりと揺れた黒髪が、あまりに長いその先端が、汗握る手に触れて
化粧気のない素の唇が、悪戯っぽく微笑んだ。
体の中で鳴っていたどくりだかごくりだかいう音は、今度は確かにぶつりといった。
あ、なんか切れた。
空中に広がりシーツに落ちていく髪を視界の端に捕らえながら、俊の最後の理性が、他人事のように呟いた。
→→→→→→→→→→→あとがき
おまたせしました!!
08年12月に宣言していました制服祭After、ようやく書きました(^-^;
待たせすぎ。スミマセン
カナさんちとはまた違った「その後」ですが、帰って来た卓ちゃんに見つかりそうになるのは同じで、スカーフの衿に手をのばした辺りで「ただいまぁー」とか言われるんじゃないかと!!
俊「ど、どうすんだよ、それ!」
蘭「どうするったってぇ…ど〜しよ〜」←そもそも卓に見せるつもりだったのを忘れている
俊「あーもう!仕方ねぇな!(テレポ→鏡の間)早く戻れ!」
蘭「……(ちらり)」
俊「ああん?なんだよ?」
蘭「あなたも、やらない?」
俊「っ! いいからとっとと元に戻って着替えて来いっっっ!!」
蘭「はいぃぃっ!!」
帰り道、こっぴどく叱られるに違いない。
でもお手て繋いで帰ると思う。絶 対。