◆ときめきトゥナイト

□ときめきお題
36ページ/38ページ


 おしとやかで
 女の子っぽくて
 やさしくて
 まさにルドマンさんとこのフローラみたいな女の子だなって思った。
 何でも言うこと聞いてくれそうなきれいな女のコ。
 男なら、もうそれだけでクラクラする。
 でもぼくは、そんなの物足りないって思ったよ。
 世継ぎを生むための道具なら、別にわざわざ一人の女に決める必要ないじゃないか。
 好きにできる女なんて、どこにだっているさ。
(あああああ、アロンはこんなことかんがえてるわけなーいー)
 フィラはそれこそぼくの3歩後ろをついてきた。

 お茶をご一緒にいたしましょう。
 お菓子を焼いてまいりました。お味はいかがですか?

 どんなにひどいことを言っても、邪険にしてもへこたれない。
 泣きもしないでいっつもにこにこにこにこ。
 おまえだって、親に言われてるから仕方なくそうしているだけなんだろう?
 無理することない。婚約なんて破棄してやるから、親に泣きつけよ。
 あんなわがままな王子、我慢できません。って。

 そう言ったら

「なぜです?」

 心底不思議そうに首をかしげて。
 聞かれたぼくのほうがあきれたね。

「なぜって、親が決めた婚約じゃないか。何度も言ってるだろ。ぼくはほかに好きな子がいるんだって」

 初めて、フィラの笑顔が揺らいだ。
 あ、こんな顔、するんだ…

「ぼくは納得してない。こんな婚約認めない」

 フィラがスカートのすそをを握りしめたのがわかった。唇をかみしめてる。あ? 泣きそう?
 顔を俯けた。泣くかな? なくかも。

「わたくし、諦めません!」

 んなっ

「わたくしが見染めた殿方ですもの。アロン様がわがままなだけの方のはずがありません」

 なななっ

「振り向かせて見せます」

 なんて女だ!
 眼の端に浮かぶ涙のしずくを振り払って、フィラはにっこりと音がするくらい見事な笑みを見せた。

 ドキリ

 その笑顔にひとつ跳ね上がった心臓には、気がつかないでおく。
 いまは、まだ。




2010/7/26
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ