◆ときめきトゥナイト
□ときめきお題
25ページ/38ページ
続・雨の日のお迎え おまけ
最近潤いがない。
たまーに見ることが出来た美父だけが、楽しみだったのに。愛良ちゃんも卒園しちゃったし、肌の張りはないし、枝毛は増えるし、ほんとヤナ感じ。
園児の保護者は年々変なの増えてくるし、園児も変なのいるし、やめちゃおっかな〜
辞めたところで嫁にいく当ても、再就職の当てもないんだけどね。
「あ」
スポーツ新聞。あれからチェックするのが癖になっちゃったのよね。同僚には「おっさんか!」て突っ込まれたけど、試合の情報載ってるし、写真だけでもみたいじゃないの。
「防衛戦あるんだ。あ、近い。チケット手に入るかな…」
もうすっかり追っかけよね。ボクシングのルールも覚えちゃったわよ。
最近は運動不足だし、ボクササイズしてみようかな、なんて考えてる。
双子の夢々ちゃん風くんのおじいちゃんが、スポーツジムを経営してるって前に聞いたんだよね。
神谷さんと真壁さんて、仲良いみたいだし、愛良ちゃんの元担任だし、もしかしたら…なんて偶然があるかもしれないじゃない?
ん…?
なんだか今、見た事ある人影を見たような…
あ!
やだやだ、あたしったら!
見たことある、だなんて!
暫く実物を見てなかったからだわ。一瞬気付かなかった。でも、見間違えるはず、ない!
きゃー!
これって運命かしら?
きっとそうよ。あたしたち、出会うべくして出会った運命の二人なのよーー!!!
早く、追い掛けて声をかけなきゃ!
スポーツ新聞なんか買ってる場合じゃなーい!
コンビニの外、バス通りを挟んだ向こう側の歩道をあの人が歩いてた。
走って声をかけたら変かしら?
でもでも、急がないと見失っちゃう。
あー! もう!
赤信号、早く青になってよ!!
バスが目の前を横切る。
見失っちゃう!
信号が変わるのももどかしくて、赤信号が点滅しているうちに駆け出した。子供達には見せられないな。
「まか…っ」
――あ
人を、待っていたんだ。
バス停で降りた人は、彼に笑顔で手を降って、彼も優しい表情でその人に歩み寄る。
いつかも、見たな。こんな光景。
2年の間。何度か見た、あの人の笑顔。同じクラスのお母さん方に囲まれた時や、子供達にせがまれて遊んでいる時の、少し困ったはにかんだ笑顔。愛良ちゃんと話す時の優しいお父さんの笑顔。カメラ越しのファンに向けられた清々しい笑顔。
たまにしか見なかったのに、その笑顔の違いをわかるほどに、あたしはあの人を見ていたんだ。
馬鹿だな。
最初から敵うわけないのに。
ずいぶん前から知ってたのに。
ただのファンとか、ミーハーでよかったのに。
なんでいつの間にこんなマジになってんだろ?
ご夫妻は、肩を寄せ合いデパートに入っていった。歩道側を歩く奥さんの脇を自転車が走り過ぎる時、ごく自然にご主人は奥さんの体を自分の方に抱き寄せて見つめ合う。
人間て、あんな風に笑えるんだ。
知らなかった。
愛良ちゃんが、一本筋の通った真っすぐな子に育ったのも頷ける。こんな人達に愛されて、大事に育てられてるんだもん。堂々と育つよ。
あーあ。失恋て、本当に胸が痛いんだな。んー? 胃かも。
――あ
ぽつりと道路を濡らした涙の染みは、降り始めた雨粒に紛れて、すぐにどれだかわからなくなった。
【あとがき】
『ラブラブな夫妻を見せ付けて、先生をぎゃふんといわせてください!』というリクエストだったんですが、横恋慕の末、失恋したただの女の独り言になっちゃいましたねー( ̄∇ ̄;
前回のお話でリクエストに応えてないぞー、と思って書き始めた「おまけ」でしたが、これもリクエストとは違う仕上がりになりましたね…
ギャグっぽいキャラだったはずなのに、切ないお話になってしまった。
勝ち目がないと自覚したという意味では「ギャフン」はクリア?
やはり失恋を軽く書くのは難しい!