◆ときめきトゥナイト
□ときめきお題
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01. 恋愛感染メール
世の中、小学生だって携帯を持ってるっていうのに、わたしは携帯を持っていない。
週末毎にお茶だショッピングだって誘ってくれる神谷さんには、買え買えって言われるけど、専業主婦に必要ないだろ、っていうのが旦那サマの言い分。
確かに、そうなんだけどさぁ…
小さく息をついた視線の先には、全部自分のバイト代で支払うからという条件で、ようやく(本当に懸命な説得の末)持つことを許された娘のケイタイ。
かわいいメタリックピンクのそれは、テーブルの上で持ち主を探してピカピカ点滅している。
「おかあさ〜ん、あたしのケイタイ知らなーい?」
「テーブルの上にあるわよ」
階段を駆け降りて来た娘が、だっと掴んだそれを開いて、とろけそうな顔をする。
開陸君からのメールかな。
携帯電話をぎゅっと抱きしめる愛良は、わが娘ながらかわいい。
恋する女の子って、かわいいのよね。
いいなー
「ねぇ、愛良」
身長も変わらなくなってきた娘の肩に、ぴとっと頭を摺り寄せると、愛良はぎょっとした顔をして体を強張らせた。
「な、なによ?」
「おとうさんにメールしてよ」
「はぁ?」
「ね? いいじゃなーい」
「いいけど…なんて?」
少し考えて、にこり(にんまり)と微笑む。
「あのね…」
そっと耳打ちすると、愛良は呆れたようにぽかんと口を開け、次いでぷっと吹き出した。
「そんなの、毎日言ってることじゃない」
「いいのよーう。おかあさんだってメールしたいんだもん」
「ま、いいけどね」
愛良は器用にぽちぽちと小さな携帯電話のボタンを操作して、あっという間にメールを書いてくれた。
「はい。このボタン押して」
「え? これ?」
言われるままに真ん中の四角いボタンに恐る恐る指をかける。
「送信っと」
愛良の指に上から押されて、携帯の画面を封筒が飛んでいく。
「こ、これでいいの?」
「そうよ。これでおしまい。もういい?」
「う、うん。アリガト」
「どういたしまして」
肩をすくめて立ち去る間際、愛良はくるりと振り返った。悪戯っぽい表情で笑う。
「お礼はお小遣いアップでいいよ?」
「なっ、馬鹿おっしゃい!」
声を立てて笑いながら、二階に駆け上がっていく。
まったくもう。
台所にもどり夕飯の支度を再開しても、メールのことばかりが気になった。
ちゃんと届いたかしら?
あの人のことだから、見てないかもしれないわ。
やっぱり、自分の気持ちは口で言って伝えないとダメね。
なんて思いながら、メールに気づいて真っ赤になってるダンナサマの姿が想像できて、自然と笑みがこぼれた。
【あとがき】
初ときめき作品です。
蘭世は携帯持ってないと思いませんか? 持たせてもらえない、というか(笑)持ってても使えないし、結局使わないんだ。きっと。