◆キリ番の作品

□一万Hit記念部屋
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石焼きいも3
――18歳(その後―オチ)


 3学期初日。
 大学受験のために登校しなくなっている三年生も流石に始業式には参加する。
 日野克も久し振りに登校した三年生の一人だ。
 クラスメイトの中には、センター試験を間近に控えた大切な時期に、始業式も何もないだろうと不満を述べる者もいる。克には、高々数時間を惜しまねばならないような奴が受かるわけがないと思える。口にはしないが。
 そもそも、地元私立大学を受験する克には、センター試験のプレッシャーなど関係のない話で、久し振りに会った級友とのお喋りを楽しんでいる。
 級友との他愛もない触れ合いも、勿論日々受験勉強に勤しむ克には息抜きになるのだが、学校に来たからには、もうひとり息抜きにからかわねばならない人物がいる。
 衆目を集めずに歩けない男、2年ダブリの真壁俊その人である。

「まーかべっ♪」

 校舎裏の部室近くで見つけた長身の背中に抱き着く。気付いていないわけはないだろう真壁俊は、嫌そうな顔をしながらも克のタックルを避けはしない。

「俊く〜ん、会いたかった〜」
「変な声出すな。気色悪い」
「連れないこと言うなよぉ。久し振りに会ったんだからよぅ」

 俊の肩に腕を廻したまま、口を尖らせて拗ねた風を装う克の顔を、俊は「うるさい」と押し退けた。
 どんなに邪険に扱われても克は取り合わない。出会った頃から2年間、年上の下級生の態度は相も変わらずこんな感じだ。
 俊が克に見せる態度は、野良犬が媚びはしないかわりにそれとなく気を許しているような雰囲気に似ている。手から餌を食べてくれる日は来ないまでも、撫でさせてはくれる。呼べば、密に尻尾を振って待っていてくれるような。
 にやにや笑いを浮かべている克を気味悪そうに見遣り、はたと気付いたように俊は足を早めた。

「なんだよー。なんで逃げんだよー」
「お前がそんな顔してるときは録な事を考えていないからだ!」

 いつもは鈍感な癖に、妙なところで勘がいいなと感心しつつ、逃げる俊の腕を掴んで外れに引っ張っていく。
 これが女子だったらもう少し色気のある楽しさもあろうというものだが、自分よりでかい筋肉質男が相手では腕を掴んでいても楽しくない。
 それでも克の顔がこれ以上はないくらいに愉しそうなのは、正月の間中気になっていたあることを俊に問い質すことが出来るからだ。

「で?」
「…なにが」

 興味津々、きらきら輝く瞳で問い掛けられて、俊は心底嫌そうに身を引いた。

「とぼけちゃってぇ、クリスマスだよこのこのぅ」

 ククク、と嫌らしく笑う克は、俊の袖を掴んで逃がさない。

「まさか何もないわけねぇよなぁ? 真壁さんよぅ」

 二学期、たまたま学校に来ていた克とゆりえを、他の男子生徒共々からかったの俊である。その時の事を、克はしっかり根に持っていた。

「クリスマスはロマンチックに、しっかりキメるんだろぉ?」

 かく言う克は、からかわれたから、というのではないが、この度めでたく大人の階段を登った。
 夏に俊に相談した時は、俊と蘭世の清い関係に驚いたものだ。今時珍しい真面目な男もいたものだと、感心したのを覚えている。

「真面目なお付き合いなんだし、そろそろ、なんて言ってなかったか?」
「ばっ! いわねぇよ!」

 真っ赤になる俊が面白くて、うりうりと肘でつついてみた。ムキになって否定する辺り、なにかあったに違いない。
 がっしり首に腕を回して、声を潜めてマジ顔で問う。

「実際どうなんだよ?」
「う…」

 俊は数秒逡巡し、四方に視線をさ迷わせた後で

「…惨敗」

 その時の俊のあまりに情けない顔に、克は堪え切れず大爆笑した。
 滅多に見れないものを見た。
 決して忘れまいと心に決めたはずなのに、翌日目覚めた克は、この時の俊の表情を忘れてしまいジタンダ踏むことになる。




石焼きいも 青春編(16〜18歳)終わり

石焼きイモ自体は青年編に続く…

―――――――――――
あとがき
「石焼イモ」はブリーフ&トランクスの歌が元ネタです。
どなたか同じネタでSSを書かれているかもしれませんね。

オチは、tkのカナさんのイラスト「惨敗」に触発されたものです。あくまでワタクシの勝手な想像ですので、イラストの意味がコレだって訳ではございません。
日野くんと俊の絡みとか、何気ない日常が大好きなんですよ!
オチを書くにあたり、をカナさんには不躾なお願いをいたしました。にもかかわらずお優しいお言葉を頂き、ありがとうございましたm(._.)m


〜お詫び〜
日野君の名前が間違ってましたー!
ゆりえさんも直しました(-ー-;
ご指摘ありがとうございます!(08.12.19追記)
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