◆キリ番の作品

□ときめきのキリリク
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おまけ 2


 魔界が変化に乏しい世界だなんて言いやがったのはどこのどいつだ。
 毎日毎日時間もお構いなしに尋ねてきやがって。お陰でおれはまだ、こっちにきてから一度も蘭世とふたりきりで飯すら食えてないんだぞ?

「らーんぜちゃん、おっはー」

 何が「おっはー」だ。古いんだよ。朝っぱらから脳天気なやつだな。

「あら、おはよう。アロン。いらっしゃい。早いのね」

 んなやつに挨拶なんぞせんでいい。
 だいたいそいつがいつ帰ったのか、おれは記憶がないんだがな。

「今日も綺麗だね♪ チュ

 い、いま…

「ね、俊は? 起きてる? しゅーんー」

 てめぇアロンこのやろう! おまえ今何しやがった!

「あ、起きてた。おっはよー☆ …あ、あれ? なんか機嫌悪くない?」

 他人(おれ)の嫁(もん)に気安く触れやがって、機嫌いいわけねぇだろが。しかも寝室にずかずか入ってくるおまえは何様だこのやろう。
※王様です。王兄殿下。

「俊って寝起き悪かったっけ…」

 うるせぇ

「ら、蘭世ちゃあん、ま、また来るねぇ」
「あら、もう帰るの?」

 ち、逃げやがったな。
 …まぁいい。
 しばらく来んな。

 ったく…

 んっとにあいつは…

 ちゃらんぽらんというか、軽いと言うか…
 おれがいいたくて言えない台詞をあっさり言ってくれちゃって…
 ああ、いや、それはまぁ、なんだ…。ごほ、ちゃんと王様やってんのかね。

「おはよう」

 寝起きの不機嫌も吹き飛ばす。魔界には不似合いな味噌汁と緑茶の香りと君の笑顔。

「はよ…」

 宿題にしたことは、実はまだ一度も出来ていない。
 す、すき、とか。ストレートにいうのが難しくてこれまでその単語に代わる言葉や表現を探して来たんだが、探す行為自体が苦手だ。
 名前を呼ぶのだって、何年かかったか…

 ああ、おれって実はてんで弱虫の根性無しなんじゃないだろうか。

「どうしたの?」
「ん? いや…」

 テーブルに並べられていくいつもと代わらぬ手料理。これらの食材を手に入れてくれるアロンの気遣いを今更ながらに感じたりする。
 もちろん、それをこうしておれ好みに仕上げてくれる蘭世にはそれいじょうの感謝を感じているのだが。

「お茶、熱くない?」
「ああ」

 相変わらずそれを口にできないでいる。

「……」
「ん?」

 見上げると、蘭世はにこりと首を傾げて笑う。

「…いや」

 言わなくてもわかってるんだと思う。
 いや、絶対わかってるんだ。
 そうしておれは、今日も言葉にすることから逃げる。

 今のおれの精一杯は、食器を片付ける君の背中に向けて、

 ありがとう
 愛してるよ

 そう念を懲らすだけ。
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