◆キリ番の作品

□ときめきのキリリク
35ページ/60ページ

30000キリリク
お姫様と王子様は幸せに暮らしましたとさ


 魔界の王子を父に持ち、ヴァンパイアとワーウルフの混血を母に持つ、当然人外の能力を授かって生まれたが、人の世に紛れて数十年、特に弊害も起こらなかった。
 オレが生まれるより少し前に、オレ達が魔界人だとばれて、人間界を追われたことがあったらしい。その時の事を戒めとして、オレ達はひっそりと人にまみれて生きて来たわけだ。
 ガキの頃ならいざ知らず。今じゃ、ばれない力の使い方、いざってときのごまかし方も慣れたもんだ。
 最近の心配は、同じく魔界王家の姫君であり、昨年妻に迎えたココの事だ。人間界くらしも短く、蝶よ花よと育てられたお姫様には、能力の使い所がよくわかっていないんだ。
 産後間もないこともあり、最近はよくヒスを起こして文字通り火花を散らす。この発火能力は誰に似たんだろうな? 義母はゴルゴンの家系で、石化の能力はあっても発火の能力はなかったはずなんだが…。なんにせよ、厄介な能力には違いない。

 壁越しに聞こえた金切り声に、オレは一息吸い込んだばかりのタバコを灰皿に押し付けた。ため息と一緒に紫煙を吐き出す。


「あーもうっ! 寝ないじゃない! うそつきっ!!」

 お腹がいっぱいになったら満足してたっぷり寝てくれます、なんて書いてある育児本を、ココは放り投げた。ねねを投げないだけマシか…

 仕事場からリビングへ。ヒステリーを起こしている奥様に声をかける。

「あくまで一般論だから。ねねの育児マニュアルなんて、世界中のどこにもないんだぜ?」

 泣きわめいてるわけじゃ無し、ご機嫌に遊んでるんだからいいじゃないか。

 ココの腕から生後5ヶ月の娘を抱き上げる。首も座って、ゆっくりしたものなら目で追い掛けるようになった。
 愛良を見ていてわかっていた事だが、魔界人とはいえ成長過程は人間と変わりない。もしかしたら種族によって違うのかも知れないが、すくなくともオレ達は同じだった。ねねも癇癪おこすと周りのもの動かしたりするけど、フォローできないほどじゃない。

 腕の中であうあうご機嫌のねねは本当にかわいい。あかんぼうって、あやしてるとこっちまで顔が緩むよな。

「…ねねは卓の方が好きなのよ」

 は?

「卓もねねのほうが大事なんでしょ」

 おい、ちょっとまて。何言ってる?

「育児なんて初めてなのに、本も見ないでどうやって育てろって言うのよ!」

 あちっ!
 家を燃やす気かっ

「本通りいかないなんてことはわかってるわよ! だけど他に頼るものがないんだから仕方ないじゃない! 寝てくれなきゃ何も出来ないんだからぁ!」

 肩で息をしながら大声でまくしたてる。目には涙。
 びっくりしてぐずり始めたねねを優しく揺すりながらあやす。
 どうもそれすらココのカンに障ったらしい。

「もういい! 卓が育てればいいわ! わたしなんて要らないみたいだから!」

 だから、なんでそう極端に走るかなぁ…

 力いっぱい乱暴にリビングのドアが閉められて、ココは部屋を飛び出していく。ばたばた足音がして、二つ隣の寝室で止まった。
 あー、きっと泣いてるな。

「ママ、ちょっと疲れてるんだ」

 大きな瞳が澄んだ眼差しを返す。
 少し休んだら、ココはまたこの瞳に微笑み返す事が出来るだろうから。

「ねね、ちょっといい子にねんねしててな」

 淡い亜麻色の髪にキスをして、小さなお姫様にはおやすみいただく。
 さっきミルクを大きい哺乳瓶一本分飲んでたから、3〜4時間は大丈夫だろ。
 赤ん坊に魔法を使うなんて、自分でも気が引けたけど、さすがに一度に二人のお姫様の相手は無理だって。
 お昼寝用のベビーベッドは、祖母手製のレースの天蓋付き。
 おふくろも少女趣味だけど、祖母ちゃんには負けるな。

「おやすみ」

 もう一度口づけて、そっと部屋を離れた。




「ココ?」

 案の定、ノックの音に反応無し。
 自分の寝室でもあるわけだから、わざわざノックなんかしなくてもいいんだけどさ。お姫様への礼儀というか、これ以上機嫌を損ねたくはないからな。

「入るぞ」

 やっぱり返事はなかったけど、ドアをあけると予想通りココはベッドに俯せて泣いていた。
 ベッドの端に座って、少し痛んでしまった髪を撫でてやる。
 いつも綺麗にしてたのにな。自分の事を構う時間も余裕もないんだろうな。ごめんな。

「ねね、寝たよ。ココは頑張ってるよ。感謝してる」

 ぴくりと肩が震えた。聞いてはいるらしい事にほっとする。

「辛いときは、言えよ。母乳やる以外の事はオレにだって出来るんだから。オレがいないときはお袋んとこ行けよ。アドバイスしてくれるだろうから」
「だけど、そんな…育児放棄みたいな…」

 じゃあ今お前のしてることは何なんだという思いが鎌首を擡げてくるが、母親としての責任は感じているんだな。なんか、…安心した。

「そんなことないよ。おまえはよくやってる」

 撫でていた頭が、くるんとこちらを向いた。

「…ん?」
「………わたし、がんばってる?」
「ああ。頑張ってるよ」

 にっこり笑って、小さい頃愛良を褒めてやった時のように、ココの小さな頭を撫でてやった。

「ココはいい子だ」

 プライドの高いお姫様は、いつもならこんな事言ったら怒る。子供扱いするなと、半日は口を聞いてくれない。
 でも今日は、頬をばら色に染めて無垢な少女のように微笑む。幸福そうに、誇らしげに。

 上体を起こしたココをもたれ掛からせ、尚も子供のように抱いて頭や背中を撫でてやる。言葉は交わさず、交わしても、囁くような優しい声音で。

「疲れてるんだよ。お母さんになったから、気負っちゃったんだな」
「…ん」
「今は甘えていいぞ。なにしてほしい?」

 かきあげた前髪から、物言いたげな瞳が訴える。ふふりと笑っておでこに口づけると、瞳が不満そうにオレを睨んだ。




【あとがき】
麻衣さんからのリクエスト。甘甘同棲卓ココ。卓はカルロ様風にタバコを吸う!
同棲すっ飛ばして結婚してねねも生まれてますがっっ
甘い、かな…?←聞くな
わたしにしては砂糖多めではないかと(^-^;

このあとココがおねだりして、卓と一緒にお風呂入ろうかとも思ったんだけど、子供を入れてもらうとか、一人の時間を作ってくれた方がママは嬉しいよなー(わたしはうれしいよ?)と思いやめました。

ひざ枕は、抱っこで許してくだされm(__)m

卓は万年筆使ってるそうなので、物書きか教師でもしてるのでしょうか?
そんで、仕事のときだけタバコを吸う設定です。


2009.8.24
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ