◆キリ番の作品

□ときめきのキリリク
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設定1:封印の塔はヘカーテによる<人除け>と<守り>の魔法がかけられており、蛮族には見つからない・人間界の法では壊れない。
設定2:ルーマニアに塔を建てたのは、なにか特殊な力場があるためである。←人間界の様子は伺えたはず。わざわざ蛮族のただ中に王子行かせることないじゃ…!Σ( ̄□ ̄; こ、殺す、気だったのか?!

なんでかというのは日記を参照していただくとよいかと。



悲劇で終わらぬお伽話を 2


 人里離れた森の深くに、人目を避けた慎ましい暮らし。自分の他には父と母がいるばかりの生活。
 もの心着いた頃から、自分は何かまわりとは違うのだという自覚があった。
 両親にさえない力が、彼にはあった。
 父は彼に力の制御の仕方を教え、母は使用を戒めた。その力はこの世ならざる力なのだと。そしてその力は、塔を守るためにあるのだと。
 父母は多くを語らない。
 ただ、館の近くに建つ塔を守らなければならないと説いた。

 塔とその周辺に、不可視の、言うなれば空気の層のようなものがあることを彼は知っていた。否、知っていたのではない。感じていたのだ。それが、自信の操る力に似た種類のものであることも。
 長じて、彼は空気が変わる場所を境に、父母が人間と呼ぶ者達が暮らしていることを知った。

 あの人間達と自分達は、何が違うのか?
 見たところ、布も纏わぬ彼等は獣のような粗野な生活をしているが、根本的なところで父母と同じに見える。
 だとすれば父母もまた人間ということだ。父母から生まれた自分もまた人間なのだろうか。
 否。
 それは違う。それだけは断じて違う。
 自分が人間とは違うものだという自負が、やがて彼の中に芽生える。
 自分は、人間などという、愚かで脆弱なものとは違う。自分は人間よりも、もっと高貴で偉大な存在なのだ。

 力場の外に暮らす「人間」と、父母には明らかな違いがあった。
 自分と同じ力はなくとも、自分に様々な知恵を授けてくれた父を、彼は敬愛していたし、後に生まれた弟妹同様に愛情を注いでくれた母を愛していた。自分を兄と慕う弟妹達の事も、彼は愛していたし、守りたいと思っていた。
 「人間」などより優れた自分には、その力があるはずだった。
 けれど、彼の力を以ってしてもどうにもならないものがあった。

 ひとつは命。

 ある日、力場の外に出て花摘みをしていた妹が、「人間」達に襲われた。
 連れ掠われた妹はすぐに兄の手によって救い出されたが、傷付いた妹は間もなく息を引き取った。
 「人間」の集落を焼き払い、何人もの命を奪い、妹の亡きがらに捧げても、冷たい骸に再び熱が戻ることはなかった。


 いまひとつは時間だ。

 どれほど愛しても、どれほど力をそそいでも、美しかった母の老いを止める事は出来ない。
 醜く朽ちていく父母を、若く強く美しいままに留めておくことが出来ない。
 力場の中は、相変わらず不可視の力で守られて、変わらぬ時を刻んでいく。彼自身の時も。
 けれど弟は違った。
 動かなぬ時の中で、弟の時だけが過ぎて行く。
 気付けば兄の外見よりも歳老いて、いつか見た父の様に老いさらばえた弟がいた。

「兄上、どうか人間を恨まずに。父上のお言葉を守って生きてください。いつか人間は我々に追い付く日が来ます。その時を待って、人と交わり、この地を守り続けてください」

 小さかった弟は、最期にそう言って息を引き取った。

 妹を奪った「人間」は憎い。
 けれどあの時の人間達は集落ごと焼いてしまった。他の「人間」達には責のないことだ。「人間」全てを憎むことは間違っている。

 弟の言葉を、何度も何度も繰り返し自身に言い聞かせた。
 この世界にひとりだけ、違う存在の自分を、異端と認めることが出来るようになっていた。
 どこから来たのかさえわからない。他の誰とも違う自分。
 自分と同じ空気を纏うあの塔の中に、自分の世界があるのではないか?
 どこにも入口のない塔。父からはきつく、決して開けてはならぬと言われていた塔。開け方など、誰も教えてはくれなかった。それでも自分には、出来ないことはないと思っていた。
 けれど、繋ぎ目すらない滑らかな石の壁に、どれほど破壊の力を振るっても、壁には傷一つ付けることが出来ない。
 壁の内側と空間を転移させる事も、壁を擦り抜ける事も、壁の内側を伺うことすらも出来ない。

 命と、時と、塔。
 ままならないものが、増えた。





 ただ一人、閉鎖された空間を生きる。
 館も、彼自身も、なにも変わらない。
 変わらぬ悠久の時を許されたこの空間では、外と時間の流れが違うのではないかという錯覚にすら陥る。
 生きているのか、死んでいるのか。
 ここに自分は存在しているのか。
 自分とは、何物なのか。
 問いに応える者はなく、彼一人の思考は堂々巡りを繰り返す。

 彼にしてみれば、一人でいた時間はほんの短い時間でしかなかった。変化に乏しい生活は、時間の感覚を喪失させる。しかし力場の外では、100年の歳月が過ぎていた。



 一年もすれば、自然は人の文明を飲み込んでしまう。
 ある日館を出た彼が、ますやったのは墓所の整理だった。
 100年という歳月は、彼の知る場所を深い森に変えていた。家族の墓も、すっかり木々に埋もれている。
 自然を前にすると、嫌が応にも流れた時とそこに息づく生命の神秘を感じる。そしてその、命の螺旋から外れた己が身の不自然さを。
 ただ、ひとりきりで、時の流れに埋もれて、ただ生きていく事に、これ以上彼は堪えられなかった。
 自分が何者なのか、生きていく事の意味され知らされず生きていく事に、疲れ果ててしまったのだろう。
 それ故に彼は、プライドを捨て、こだわりを棄てて、かつてあれほど憎み、嫌悪してきた人間に交わって生きていく事を選んだのだ。






【なかがき】
ひとまずキリのいいところで。

このあと、王子は蛮族に混じって生活し、蛮族を率いて一大勢力を築きます。
「ダキア王国の建国王にしても…!」なんて思ったんですが、結局ローマに蹴散らされるしなぁ…

『人間と結婚して、能力を背景に一大勢力を築いてあの辺り一帯の豪族になって、近しい人々の死を見詰めて狂っていく』というのが当初のフローだったんですが、「地」となる時代背景がさっぱりわかりません。15世紀くらいならまだなんとかなりそうなんだけど、さすがにそんなに長くは生きていないだろう。

楽しみにしてくださっていた方には申し訳ありません。
もっとお勉強して、いつかリトライしたいと思いますm(‐‐;m
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