◆キリ番の作品

□ときめきのキリリク
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明暗 蘭世争奪戦
4.夜戦

――――――――――梢

 散々騒いで寝てたら着いてた北海道。
 よく解らない間に真っ暗などっかの丘(山かも。わからん)に登らされ、寒い腹減った眠いと文句を言っていたら、日本地図は正しいんだってことを思い知らされた。
 北海道の南端から、本州の北端を(青森のどこに当たるのかは解らない)一望にすることが出来る。

「…綺麗」
「うん」

 夜の闇に浮かぶ人工の明かり。
 よく、夜の高空地図で、日本が列島の形そのままにぺかーっと光っているのを見るけど、あれって本当だったんだ。凄いことだと思わない?
 そりゃあ、北極の氷も溶けるさ。
 なんて事を言ったら悦子に「ムードのない子」って白い目で見られたけど。

「いや、綺麗だけどさぁ」

 寒いし腹減ったんだってば。早くホテル行こーよー

「あんたに彼氏が出来ないのがよく分かるわ。蘭世ちゃんをご覧? あんたに何が足りないのか学んでおいで」
「んあぁ?」

 痛゛っ
 頭を持たれてぐりんと顔を回される。
 あたしと悦子と恋から少し離れた所に(あまりの人込みで逸れた)、顎の下で手を組んで、夜景に見入る蘭世ちゃん。

 『うっとり…(はーとまーく)』

 まぁ、そんな感じ。
 当然のように彼女の隣には真壁のオイサンがいる訳でして、逸れたのだって真壁の策略なんじゃないのかと確信に近い疑いを抱いていたりする訳さ。
 当の二人は気付いてないみたいだけど、転落防止の柵に両手を突っ張って真壁はしっかり蘭世ちゃんを囲い込んでるし、真壁の肩に蘭世ちゃんの頭はもたれかかっちゃってるし、すっかり二人の世界。ラブラブ全開。
 あーあ、蕩けそうな顔しちゃって…
 いつものポーカーフェイスも説得力ないね。
 あれで蘭世ちゃんは「付き合ってないよ」なんて寂しそうに笑うんだからね。やれやれ。てか真壁許すまじ!

「えっちゃーん、写真撮りましょーよー」
「えっちゃんゆーな気色悪い」
「酷」

 笑いつつ悦子が取り出した『写るクン』を構える。
 夜景は綺麗に写らないかもなー
 まぁいいや。

 パシャリ

「フラッシュたいたら写らなくない?」
「て、あんた何撮ってんのよ?」

 夜景+自分を撮ると思っていたのだろう。悦子はピースサインのまま怪訝そうな表情。カメラ向けてピースする奴も今時珍しいぞ。

「んにゃ。夜景は二の次」

 にや、と笑ったあたしの視線の先を追った二人は、ああと納得の息を吐いたのだった。


――――――――――蘭世

 すっきりと冷たい空気。白くなる吐息が、なんでこんなに嬉しいんだろ?
 ね。真壁くん。
 地図の形とおんなじに浮かび上がる夜景。
 なんて綺麗なんだろう。高台から見る夜景は本当に綺麗で、その光景を、わたしは一生忘れないだろう。
 その景色を、こうやって真壁くんと一緒に見ることが出来るなんて…
 シアワセ…

 うちの学校以外にもかなりの高校がこの高台からの夜景を見に来ており、かなりの人でごった返していた。
 わたしは早々に梢ちゃんたちとはぐれてしまったんだけど、側には真壁くんがいてくれたから、全然不安になんかならなかった。

「綺麗だね…真壁くん」
「ああ。そうだな」

 息が白くなるほど空気は冷たい。
 けれど、背中越しに真壁くんがいる。
 鼓動が伝わるほど近くに互いの存在を感じている。
 それだけで、周囲のざわめきも、冷気も何も気にならい。

 ずっと、このまま…

 なんてことを考えてたら、急に背中に悪寒が走った。
 真壁くんが体を離したんだ。
 隙間に入った風が物凄く寒くて、一気に現実に引き戻された。
 不満そうな顔をしていたんだろう。見上げると、くすりと笑ってわたしの鼻をちょいっとつまむ。

「うにふるのー」(何するのー)
「移動、だとよ」 

 真壁くんが親指で指した先に、わたしを待ってる梢ちゃん達がいた。


 バスに乗ってホテルまで移動したときはもう真っ暗で、荷解きする暇もなく夕食・お風呂の時間になった。
 その後は消灯。

「ああー。お布団〜〜」

 梢ちゃんがばふんとお布団につっぷして、えっちゃんもれんちゃんも寝る準備を始めていた。
 眠る前に少し、真壁くんとお話したかったけど…
 もう消灯時間過ぎちゃったし、こんな時間に男の子の部屋になんか行ったら叱られちゃう。
 それに、今日は流石にわたしも疲れてるみたい。
 ふかふかのお布団を見たら、もうその誘惑には勝てないわ。

「うふふふー。蘭世ちゃんの隣ー」

 ご機嫌だね。梢ちゃん。
 わたしも、楽しいよ。

「ね、手ぇつなご?」

 梢ちゃんはちょっと驚いた顔をして、それからにょきっとお布団から手を伸ばしてきた。お布団の中で手を握る。

「えへへ…。なんか、いいね。こういうの」
「こういうのって?」
「雑魚寝、って言うの? うち、ベットだから、お布団に眠るのって新鮮。お友達と旅行もあんまり行った事なくて」

 くるりんとお互い向きあって、暫く見詰め合う。そのうち、なんだかおかしくなって、どちらからともなくくすくす笑い始めた。

「なぁに? 気持ち悪いなぁ」
「ふふ、ごめん」

 言いながらも、まだわたし達は笑い続けた。
 気持ち悪いって、えっちゃんに枕をぶつけられたり、足が冷たいってれんちゃんが布団の中に足を突っ込んできたり。
 ベットでは絶対体験できない事だよね。
 4枚並べて敷いてあったけど、ふざけあってるうちに結局真ん中の2枚に集まって、わたし達は眠った。



――――――――――俊

 むさい。
 野郎だらけの空間には慣れてるつもりだったんだが、正直ここまで欝陶しいとは思わなかった。
  日頃のジム通いで、男臭いのには慣れているつもりだったんだが、ここにくるまでの女の比率が高すぎた。
 ホテルに着くなり100%男の空間に詰め込まれ、野郎の放つ体臭に改めて気付く。
 こんなところで5日も過ごすのか…
 因みに今回の旅行、男子には大浴場の使用が許可されていない。
 男子の数なんて学年合わせて10人そこそこだし、部屋風呂でもおれんちより余程広くて立派な風呂がついているわけだから、困る事はない。
 不埒な考えを起こさないように、という配慮らしいが何とも味気ない。
 不埒な考えなんか、おれが許さねーっつーの。

「やっぱイイよな」
「ツヤっつーの? ぐっとくるよな」
「やっぱあれかな? やっちゃってんのかな…」

 何の話だ。
 視線を感じるんだが…

「なんだよ?」

 威圧的にならないように、穏やかに話しているつもりなんだが、江藤みたいにうまくはいかない。
 班員3人が、互いに押し付け会うように話し掛けあぐねいている様子がありありとわかる。
 どーしたもんかな。
 話しやすい振りのひとつも出来たらいいんだが、なんも思い付かん。

「あのさ、真壁は江藤さんと付き合ってんの?」
「……は?」

 何をいきなり言い出すんだ。コイツら。
 おれを「真壁」と呼び捨てるのは大津、君付けが井出、眼鏡が渡辺。多分…
 同じクラスの男子だから、一応話もするんだが、打ち解けているのかというとそうでもない。
 学校自体休みがちで、出て来ても寝ているおれが悪いんだが。

「んで、やっぱ大人の付き合いな訳だ!?」

 興味津々だな。何を期待しているのかわからんではないが、残念ながらそんな付き合いしたことねーぞ。やはりああいうことは責任の取れる立場になってからだな、しかるべき手順を踏むべきだと…

「うおおっ、羨ましい!」

 黙っていたのを肯定と解釈したらしい。枕を抱いてもんどりうつ大津。

「俺も彼女ホシー!」
「あんだけ女がいてなんで俺らに彼女ができないんだよー」

 いやぁ、少数派過ぎて意識されてないんだと思うぞ。

「いいなー、真壁君。流石だよなー。俺らから見てもかっこいいもん」

 こら、触んな。気色悪い。

「筋肉スゲー!」
「マジで? うおっ、マジだ! スゲー!」
「かっきー! スゲー! 抱いてほしー!」
「アホか」

 今にも抱き着いてきそうな井出の額にチョップ。お前らのノリはよくわからん。

「どっちから告ったんすか?」

 いつの間に取り出したのか、コーラとポテチを囲んで車座に座る。
 ビールを真似てコーラを差し出す眼鏡。えらい様似になってんなお前。

「どっちかって言えば向こうから、か」

 転校二日目辺りで言われたような気がしないでもない。
 あいつの場合、一般的な「告白」とは違う気もするが。

「うわー羨まし過ぎる!」
「一度でいいからコクられてみてー!」
綺麗で優しくて料理もうまい彼女なんてサイコーだよな! 毎日弁当、江藤さんの手作りなんでしょー?」
「ん、まぁな」

 こいつらコーラで酔ってるんじゃねーだろうな…?
 まぁ、こう、なんだ。
 あいつのことを誉められるのは、悪かねぇな。

「決めた俺、修学旅行中に彼女作る!」
「俺もー」
「斎藤さんとか可愛くね?」
「井出、斎藤の事結構マジなんだぜ?」
「ちょっ! ふざけんなテメー」

 作るって決めて出来るもんでもないだろうに。
 こいつらも元気だよなー。
 話題が逸れたのはありがたかった。この隙に風呂入ってくるか。
 じゃれあう三人を尻目に、おれは部屋を抜け出した。
 江藤にとってのおれも、誇れる存在であればいい、なんて思いながら。
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