◆キリ番の作品
□ときめきのキリリク
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明暗
3.遭遇戦
―――――――――――俊
若干のトラブルはあったものの、新幹線は定刻通りに東京駅を出発し、おれたちはそれぞれの班へと別れた。
おれはクラスの男子だけ集めたムサイ班。江藤は富樫やクラスの女子と一緒だ。
周りからはきゃいきゃいはしゃぐ女どもの楽しそうな声が聞こえるが、おれの周りはお通夜のようだ。
他の男子と馬鹿話する気にもならず、寝たふりしてるおれのせいだという自覚がないわけではないが、騒ぎたければ騒げばいいじゃねえか。おれは別に黙ってろなんて言った覚えはない。
「おっさんったらアレでしょが」
くすくすくす
あぁ?
振り返るとメチャクチャ嬉しそうにこっちを指差してる富樫と目があった。
ついでにこちらに向けられる思念もキャッチする。
………
むっつり、助平てお前……
富樫はニヤリと嫌な笑顔になった。それから班員二人に目配せして江藤にぎゅっとひっつく。
て、てめぇ…
こめかみがひくつくのがわかった。
江藤は女の子特有のスキンシップだと解釈したらしく、照れながらも班員を抱き返したりしている。
っんか、むかつく…
姿勢を戻して椅子に座り直す。
班の男子3人が、興味津々といった体でこちらを見ていたので、ジロリと睨みを利かせておく。
ったく、見てんじゃねぇよ。
―――――――――――蘭世
トランプして、お菓子の取り替えっこして、お喋りして、写真とって…
友達との旅行ってなんて楽しいんだろう!
わたしったら、真壁くんのこと、少し忘れてたもの。
真壁くんは寝不足だったのかな? 最初のうち、寝てたみたいだけど、お昼ご飯を食べてからは班の人達と楽しそうにおしゃべりしたり、ふざけたりしてた。
こうして見ると、彼も普通の高校生よね。
ふふ、かわいい。
日野くん以外の人と普通に会話してる真壁くんて、あんまり見ないかも。貴重だわ。
わたしからは真壁くんの頭しか見えないの。今どんな顔してるのかしら?
わたし以外のヒトと楽しそうに笑ってる真壁くん…なんて…
ちょっと妬けちゃうかな。
ん?
真壁くんの前に座ってるひとが真壁くんに何か囁いてる。
なんだろ。何て言ってるんだろう。
うわ。こっちむいた。
びびびびっくりして、つい思い切り目を逸らしちゃった。
うう、不審よねぇ?
だって真壁くんたら、急にこっちを見るんだもん。観察してた、なんて思われたら嫌だもん。
う、視線を感じる…
掌に、じっとり汗を、かいて、き、た…
「なに眼つけてんのよ」
え?
「つけてねぇよ」
え? え?
「じゃあ蘭世ちゃんに見とれてたんだ」
「なっ」
えええ?
ちょっと梢ちゃん!?
「真壁のむっつりすけべ」
「誰がだ!」
「真壁のへんたーい」
「お前にだきゃ言われたくねぇ!」
「きゃー怒った」
ひしっと抱き着いてきた梢ちゃんを抱きしめる形になったけれど、たきつけたのは梢ちゃんだと思う…
目が会うと、真壁くんは眉間をコリコリして立ち上がった。
「ど、どこ行くの?」
「茶」
「あ。あたしのもー」
「ついでにあたし達のも!」
「はあ?」
「真壁、俺も! 俺スプライト!」
梢ちゃん達はにこにこと百円玉を真壁くんに差し出している。
ため息つきながら、真壁くんはみんなの掌から百円玉を摘み、それぞれのリクエストを聞いている。
「お前は?」
「ひょえ?」
「ひょえって…」
笑いすぎです。梢ちゃん。
だって急に声かけるんだもんー。
「何にする?」
「えーと、えーと。…なんでもいい」
「なんでも、は一番困るんだよ蘭世ちゃん」
「う、じゃ、じゃあ」
お茶、と続けようとしたわたしに、梢ちゃんはにたりと笑う。
「自販機見ておいでよ。真壁君も一人で持って来るの大変だろうしさ」
引っ張られて、背中を押された。
「…じゃ、行くか?」
「う、うん」
なんか照れる。
客車を出る時、ピョっと誰かが口笛を吹いたのが聞こえた。
―――――――――――梢
真壁いじりは楽しい。
それ以上に真壁を見てる蘭世ちゃんの観察が楽しい!
恋する乙女な蘭世ちゃんは、みてる人の心までオトメにさせてくれる女のコなのだ。
かわいー
マジかわいー
野郎相手に遊んでる真壁クンが気になるんだね?
さっきまで旦那を忘れてうちらとだべってた自分を後悔してるね?
なんでも顔にでるから、見てて飽きないわ。ホント。
嘘をつかないのは蘭世ちゃんの良いところ。
嘘をつけないのは、蘭世ちゃんの弱いところ。
守ったげたくなっちゃうんだよね〜
この旅行中、蘭世ちゃんを満喫するつもりだけど、それは蘭世ちゃんを独り占めするってこととは違うのだよ。
「自販機見ておいでよ。真壁君も一人で持って来るの大変だろうしさ」
ほら。戸惑う姿が初々しくて、薔薇色に染まった頬が凄くかわいい。
「…じゃ、行くか?」
「う、うん」
使い走りにされたのに、その嬉しそうな顔はなんなのさ。
ま、それが見たくてやってんだけどね。
「梢、かーお」
レンに頬を突かれても、あたしの顔は暫く緩んだまんまだった。