ドラクエ3
□明けぬ空を背負って(本編3)
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だらだら書いてしまったのでボツにしたものをサルベージして拍手おまけにしました。
38-10-2のおまけ
そろそろ休もうかと寝台に手をかけたアレクシアは、控え目に叩かれたドアの音に、誰とも聞かずにドアを開いた。
「リリア? どうしたの?」
まさかいきなり開くとは思っていなかったリリアは、大きな目をぱちくりと瞬く。
「よくわかったわね?」
「まあ、なんとなくね」
足音やドアの叩き方、それこそ息遣いでわかる。自分の命を預け、相手の命を預かって、この数年一緒に過ごしてきたのだから当たり前だ。
訪ねてきた理由までは解らなかったが、わざわざこんな時間を選んできたのだから、他人には聞かれたくないことなのだろう。それに、何やら遠慮したようになかなか中に入ろうとしない。いつもなら扉が開くや中に入ってくるのにと、アレクシアは苦笑を漏らした。
「なに緊張してるの」
らしくないねと招き入れると、礼儀知らずみたいに言わないでと、リリアは頬を膨らませた。
中に入っても、リリアは直ぐに本題には入らなかった。自分の部屋と比べてどうだとか、サーディが秋波を送ってくるのが鬱陶しいだとか、明らかにその場しのぎのうわっぺらな会話を続ける。
「うん。それで?」
「うん…」
「リリアが言いたいことは、ちゃんと聞くよ」
「うん」
サマンオサ特産の蜂蜜酒をお湯で薄めたもので喉を湿らせてから、リリアは心なしか背筋を正してアレクシアを見た。
「明日からの組み合わせなんだけど」
僅かに、アレクシアが目を見張る。リリアはリリアで陶器に注がれた酒を見ていたのでそれには気付かなかったが。
「あたし、魔方陣の方でいい? ほら、ずっとお城の中で偉い人と一緒だと、肩が凝っちゃうっていうか」
嘘だ。直感的にそう感じた。けれどアレクシアは、物分かりのいい顔をして頷く。
「なんだ、そんなことか。じゃあ鏡はわたしとディクトールで調べるよ」
「急にごめんね」
「ううん。気にしないで」
あからさまにほっとした様子のリリアに、アレクシアは「にこり」と微笑んで見せた。意識せねば笑えなかった。リリアがいつもの調子だったなら、アレクシアの仮面になど一発で気づいただろう。
それから二言三言、、二人は中身のない会話を続けたが、カップの中の酒が無くなると会話も途切れた。
「えー、と」
視線を合わせようとしないリリアが席を立つのを、アレクシアも黙って待った。
「明日も早いし。戻るわ」
目が合った時には、笑みの仮面が二人の表情を覆っている。
「うん。お休み」
廊下まで送って、すぐにアレクシアは扉を閉じた。閉じた扉の向こうで、リリアの気配を追う。レイモンドの部屋に行くのではないかという考えが横切るのを必死に打ち消して、打ち消せば次はレイモンドにすがって泣いていたリリアの姿が瞼に浮かぶ。明日だって、レイモンドと行動を共にしたいから、調査対象を変えたいといいに来たのではないのか?
「っ!」
ゴンっともたれた扉に頭を打ち付ける。流石に城の扉はいい木材を使っている。鈍い音がした。
「…痛い」
どうして胸が痛むのだろう。
深酒をした訳でもないのに胃がムカつく。気持ちが悪い。
「あした、はやいし。もう、ねないと…」
自分に言い聞かせるようにぽつりぽつりと呟いて、アレクシアは扉から体を引き剥がした。
ベットまでがやけに遠い。倒れ込むようにベットに潜り込む。最高級の羽毛布団にくるまって、寒さなんか感じるはずがないのに、手足が冷たくてたまらない。
なぜこんな気持ちになるのだろう。
このあとから、時折抱くようになるこの感情の名前をアレクシアが知るのは、まだしばらく先のこと……
20130422