テニスの王子様

□THE ULTIMATE HARD WORKERな跡宍
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8.Eternal





『今夜は、月が綺麗だな…』



跡部は、薔薇が咲き誇る庭に一人佇んでいた。
漆黒の闇が辺りを包み、月だけが照らしだされている。
その月の輪郭さえも、闇はやがて消してしまうのだろう。
庭の周りに並んでいる木々は風にざわめき、
そこからは、心地の良い蝉時雨が鳴り響いている。



今は、日暮れから夜にかけての、所謂【宵】と呼ばれる時刻。
日々のこの時刻が、跡部は苦手だ。



氷帝中等部を卒業後、跡部は宍戸を日本に残し、
一人イギリスに飛んだ。
その宍戸に、イギリスに行く決意を伝えたのは、
今と同じ、【宵】の時刻だった。



闇の中、気丈に振る舞いつつも、堪え切れず頬を伝った宍戸の涙を、
跡部が忘れることは永遠に無い。



中等部を卒業すれば、日本を発たねばならない。
そんなことは、中等部に入学する時から分かっていたこと。
どんなに愛しい者を慕へど、それが【跡部】の運命。



ならば、せめて魂だけは、宍戸の元に残そう、と。
跡部は、別れることになると知っていながら、宍戸に想いを告げた。
傷付けると分かっていながら、宍戸の中に自身を刻み付けた。



「いつか…俺が日本に帰った時は…」



自分勝手な過ちを犯した自分を、宍戸はまた受け入れてくれるだろうか。
数年、数十年、幾千の時を超えて、宍戸という閃光が差すあの場所へ…
再び立つことが出来るのならば、他に望むことなど、跡部には無かった。



静かに瞳を閉じ、瞼の奥で、風に揺れる景色を眺めた。
跡部自身の胸を絞めつける、宍戸という面影に寄り添いながら。
「必ず、あの場所へ帰る」と、決意を固めて。





→9.Betrayal
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