テニスの王子様

□THE ULTIMATE HARD WORKERな跡宍
14ページ/15ページ

13.氷の世界




「さみー」



隣を歩く宍戸が、手に息を吹きかけながら呟いた。
寒いのならば、手袋を使えば良いと思うが、
「手になんか被ってる感じがするのって、あんま好きじゃねぇんだよな」
という理由から、宍戸は手袋を使おうとしない。



空を見上げれば、関東では珍しく、
吹雪と呼べるレベルの雪が降っていて。
この雪は、ここ数日続いているものだ。



「確かに、今年の寒さは記録的なもんだな」
「だよなー!こんな日にリンゴ売りの少女とかいたら、大変だよなー」



「それを言うなら、マッチ売りの少女だろ」
という突っ込みは、思わず流してしまう程の寒さだ。
ふるえる程の寒さでは、マッチ売りだろうが、
リンゴ売りだろうが、大変なことには変わりがないし、
そもそも居やしないだろう。



「さみーさみー」と繰り返す宍戸を連れて家に入れば、
家の中も何やら騒がしくなっていて。
近くにいたメイドに状況をきけば、
「旦那様の御部屋に設置してあるTVが故障してしまい、
 取り替えているところ」だという。



故障したというTVに電源を入れてみれば、
普段とは違う、普通のTVでは出せない画期的な色を表示していて。
とても醜いアイドルを、グッと魅力的な娘にしてすぐ消えた。



「へぇ、景吾ん家のTVも、壊れることあんだな」



「お前も寒さにやられちまったのか?」などと、
笑いながらTVに触れる宍戸の小指を、
俺の小指を絡ませることで、身動きがとれなくしてやれば、
「なにしてんだよ」と、宍戸が笑顔を見せた。



TVに映る醜いアイドルよりも、寒さに縮こまる顔よりも。
今目の前にある、無邪気な笑顔が、俺は一番好きだ。



「お前は、寒さで壊れたりすんなよ」



俺の言葉に、宍戸は一瞬キョトン…としたが、
すぐにまた笑顔に戻り。
「おう!」と、元気に答えた。





→あとがき。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ