記憶の回廊

□第二章・渦巻く月夜
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全く働かない頭に、響く優しいが
少し哀しそうな声。
視線をずらせば、自らと同じ純白の布で身体を覆われた背の高い女性。
少し、あの緑青色の瞳の彼女に似ていると思った。






「誰の死を、望んでいるのですか?」

「あ、…え…」







白乃を見詰めるのは、第59代目となる神方「近衛 嗚都名(オトナ)」。
思慮深く包容力があり、王として、そして母として妻として十分すぎる人物。
そう評価するものは多く、勿論白乃もその1人だ。






「…いえ、なにも」

「…そうですか」







悲しそうに一度目を伏せて、煌々と光る月を見上げる。
美しいと、笑う白乃の顔を思い浮かべ、嗚都名はふと笑った。
そんな声も、今日は聞こえない。






「…白乃?」







白乃は、異質とも見えるほど冷たい瞳で、月を見詰めていた。
それを見て、思わず息を呑むほど。
何かを決意したような、鋭く真直ぐで、異常なほど冷徹な瞳。





「…どうか、しましたか?」






混在する世界、混沌する心、何時までたっても進まない時。
いや、憎悪を感じるほど時は軽やかに流れて、時折無駄な者を排除するように。

忘却の波を呼び起こす。






「あの人は」

「…え?」

「あの人、…あ、そういえば、私…?」







半分眠っているかのように、全く働かない。
堕ちようとする瞼を無理矢理上げて、ベッドから降りる。
ふらふらする、でも何故か、気持ちばかり急いでいた。








「わっ」

「白乃!」
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