記憶の回廊
□第二章・渦巻く月夜
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膝を、白く光る冷たい石にぶつけた。
痛いと思って、…頭が一瞬真っ白になる。
…そうだ、あの人が生まれてきて、それで私は…。
「…あの人は何処ですか」
「お前を運んだ、し」
「違う!」
「…白乃?」
違う、あの人はこの世界を命の全てを懸けて護った人。
いろんな世界を、護り続け、護っている人。
ひとりでずっと、ひとりでなきながら、きずつきながら…嗚呼!
「何処ですか!?」
「地下の月臣牢に」
「つきおみ、ろう…牢屋!?」
応えた声に振り向いたら、そこには…あの人の、愛しい人。
只管に想い続けた人を忘れてしまった人、その方が良いって事は、勿論知っている。
自らを見詰める瞳が、変に冷たいことを察したのか、ゆっくりと近づいてくる。
「白乃…?」
「…天奈様は?」
「今は、休んでいるが…」
そんなことを聞いてもなんの意味もないけれど、なんとなく安心した。今は、見たくないから。
どうしようもない感情がばらばらと音を立てて崩れていく。
理性が、本能を殺して、崩れた感情とともに心の奥底に押し込めていく。
「そうですか、…では、」
立ち上がって、じっと廊下を見詰める。
今何をするべきか、頭がすっきりして、思考回路が綺麗に周る。
消えてしまえばいいのだ、こんな心。