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□魔法のことば
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(ふふ、あいつ困った顔してたな)
空中遊泳をするように流れていくなかで、ロックオンは愉快そうに笑った。
今も、彼が一人でしどろもどろになっている様子がありありと浮かぶ。
悪いな、とは思ったが、あれはもともとアレルヤにやろうとしていた紙だったからせいぜい頑張ってくれよ、とロックオンは笑いを深めた。
最近アレルヤは元気がなかった。
優しい彼のことだから、自分にも、この組織の意義や在り方に対しても、思い悩んでしまうことはたびたびあったのだけれど、今回はいつもよりも沈み具合が激しいように感じられて。
あまり気を張るな。
ロックオンはともすれば優柔不断と受け取られがちな、だがその実慎重で頑固な彼の顔を思い胸中で呟いた。
お前は、俺たちは、正しくはない。
けれど、間違ってもいない。
そう思うから。
(いや、むしろ間違いを正されにいくのか?)
だったら。
じゃあ、それまでは、ずっと一緒だ、みんな。
ロックオンは、その時まで、クルー全員が彼ららしく一日を過ごせるといいと思う。
笑いながら、悩みながら、その時までを。
それは、マイスターだって例外じゃない。
アレルヤ、お前もだよ。
納得するまで、悩み続けろ、アレルヤ。
それで、気付け。
お前はどんな道だって行けることを。
どんなに高い恐れの山があろうと、どんなに深い悔恨の谷があろうと。
お前には、飛び越えるための翼がある。
お前の心を縛るものは、きっとお前を何倍にも大きく成長させるから。
それが何かなんて訊かないけど、お前が最初の羽ばたきをして飛び立つまでは、足場を支えるから。
(あれは、お前にぴったりのことばなんだぜ?)
彼には、きっとできるから。
(飛べよ、アレルヤ)
ロックオンはもう一度笑うと、機嫌よく通路を蹴って消えていった。
飛べ、飛べ、
天まで
飛べよう。
それは、あなたに送る、魔法のことば。
2008・7・12
笑いながら、悩みながら、その時までを。