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□untill you fall in sleep…
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任務が終わって次の出撃までのオフ。
ロックオンは倒れこんだベッドからしみじみと室内を見回してみた。
備え付けのテーブルとデスク、チェスト、そしてブックシェル。
何気なく手を伸ばして、ころころと人差し指でハロを転がし、どこまで指一本でいけるか試してみる。
いくらも行かないうちにこつん、と球体が金属音を立てて跳ね返り、その衝撃に反応してAIのライト部分がぴか、ぴかと光を点滅させた。
「コレナニ?コレナニ?」
くるりと身を反転させ、自分がぶつかったものについてハロはこちらを見上げ尋ねてきた。
「これは、本。つってもこれだと事典だな。機械工学について色々解説されてる。ハロ、お前の頭にもデータがあるだろ、それをプリントアウトしたものだ」
「アル、アル。データ、アル」
該当データがあったからか点滅パターンがゆっくりになる。見るともなしにその脈動に似た動きに、心が和らいでいく。
「ホカニハ、ホカニハナニガアル?」
「本か?…そうだな、ペーパーバックとかハードカバーなんかがそこの棚にあるぜ」
ただ、とロックオンは続ける。
「こっちはお前のデータには入ってないな。まあ、娯楽の一種だから」
そう言うとライトが激しく点滅した。
「シリタイ、シリタイ」
と耳をパタパタ開閉させている。
このAIは積極性が強く、人間とコミュニケートすることで自主学習を深めていく。
今回もそのプログラムが発動したようだ。
「いいぜ。ただしばらくしたら次の任務の資料を貰いにいかないといけないから、分厚いのじゃなくて、ほら」
ベッドから立ち上がって本棚へ近付く。
ぽん、と奥から引っ張り出した本の表紙を叩いた。
「絵本にしようぜ。この間本をかなり発注したら一冊紛れ込んでてな。もう支払いはすんじまってるから返すにしても手続きがめんどうだからほっといてたんだ」
ぱらぱらとページをめくる。
ストーリーは典型的な童話の様だ。
再びベッドに腰を掛けると、ハロを膝の上に置く。
題字を読み上げながら、表紙を開いた。
「シンデレラ」
「オモシロイ、オモシロイ。フシギ、フシギ」
読み終わると、AIはぴこぴこと耳を動かし、ロックオンを見た。
「シンデレラ、オヒメサマニナッタ。マホウ、マホウ。マホウッテナニ?フシギ」
「うーんなんだろうなあ。ハロに魔法がわかったら凄いことだしな」
機械が魔法を理解するということは、魔法の原理が解明されるということで。
「イツカワカル?イツカワカル?」
無邪気な質問にロックオンはそうだな、いつかな、と答えた。
「そろそろ資料を取りに行かないと」
暫く絵本の挿し絵を眺めていたハロだったが、ロックオンがそう言うとみずからころん、と床へ転がった。
察しの良いロボットだ。
本を閉じて腰を上げたロックオンの足元で跳ねる。
「ハロモイク、ハロモイク」
「じゃあ抱えてくぜ。」
ロックオンは頷くと、相棒へと手を伸ばした。
「カエッテキタラ、マタエホンヨンデクレル?」
AIは抱え上げられながらおずおずと切り出した。
ロックオンは破顔しながら、いいぜ、と明るく告げた。
「ただし、本はあれ一冊しかないから俺のうろ覚えになるけどな」
その言葉にハロは嬉しそうにライト部分を点滅させた。
2008・4・28
しばらくほっといた絵本ネタ。
1ページに収まらなさそうなので、続かせます。
しかしハロはこんなに流暢に喋るのだろうか。
あとロックオンの考えがわりと冷たい(笑)。
いやちゃんとハロを可愛いと思っていますよ、うちのロックオンは。
ただ今の技術では自分の生きてる間はハロ(機械)と自分(人間)が相互対等に分かりあえる日は来ないんだなって思って
たらいいな。
しかしシンデレラって!
うっかりにもほどがあらぁ!!
学術書とかハードカバー類てんこもりの中でシンデレラは浮いただろうなあ。
ごめんロックオン。