小市民狼と情報屋狐

□狼の推理
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事の起こりは数十分前。
 
 
 
 
 
 
 
 
2つの買い物袋を両手に持ち、乃良は自宅の鍵をガチャリと開ける。
 
「ただいま帰りました、っと」
 
「おかえり、乃良」
 
乃良が玄関を開けて部屋に入ると、そこで奈倉が出迎えてくれた。
奈倉を見て、乃良は少し驚いたように聞く。
 
「動いて大丈夫なんですか?」
 
「少しならね」
 
そう答えて、奈倉は乃良の持っていた買い物袋を1つ預かる。
脱いだ靴を揃えて立ち上がろうとした乃良だったが、ふと視線がある一点で止まった。
 
「……」
 
しかし、乃良はそのまま何事もなかったかのように立ち上がる。
先に居間へ戻っていた奈倉は台所へ荷物を置くと、そのままソファに座りに行った。
乃良はもう1つの荷物を台所に置いてから、観察するような眼で台所をぐるりと見回す。
 
 
台に置かれた買い物袋。
 
炊飯器。
 
水滴が付いたままのコック。
 
少し塗れたシンク。
 
今朝洗われた食器が入っている水切りカゴ。
 
オーブントースター。
 
電子レンジ。
 
 
そこで何を思い立ったか、乃良は少し小さめな冷蔵庫の扉をガチャッと開いた。
 
 
調味料類。
 
1000mlパックの牛乳。
 
未開封のミネラルウォーター。
 
バター。
 
卵。
 
りんごジュース。
 
手作りプリン。
 
ウィンナー。
 
野菜。
 
 
乃良はそこで、口を弓張月のように緩めて細めて――笑った。
 
 
 
 
 
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