青春トラジコメディ

□興味
2ページ/5ページ



 
同日の昼過ぎ。池袋。
臨也は、目的もなくただフラフラと町を歩いていた。
否、訂正しよう。目的ならある。人間観察だ。
臨也は人間が好きだ。どうしようもないほどに、人間へ愛を注いでいる。真っ直ぐに見えるほど、歪んだ心で。
――それを無償と言うのかどうかは別として。
だから臨也は、人間の全てが知りたい。色々な人間を知りたい。その為には、まず観察。
そんなわけで彼は今日も、大好きな人間がうじゃうじゃいる池袋の60階通りで人間観察を行っていた。
と、そこで見覚えのある人物を発見した。
 
(お、あれは……)
 
その人物は店のショーウィンドウにじっと見入っているせいで、臨也に全く気付いてないようである。
臨也は、チャンスだとばかりにニヤリと笑ってその人物の後ろにこっそり回り込み――
 
 
 
「ひざかっくーん」
 
「ぅわッ?!」
 
膝かっくんした。
カクン、と膝が折れて倒れかける皆守乙羽。
そんな乙羽を見て、臨也は腹を抱えて笑った。
 
「あっはははは! もう少し色気のある悲鳴とか上げられないの?」
 
「ッ……折原君っ!」
 
「大正解♪」
 
すぐに体勢を整え直した乙羽に、臨也は悪気の欠片も見受けられない笑顔を向ける。
乙羽は肩を振るわせて怒っていたが、すぐに諦めたように溜息をついた。
それに気付かなかったのか、臨也はにこにこ笑いながら乙羽の後について歩く。
 
「偶然だねぇ、こんなに人通りの多い場所で逢えるなんて」
 
「人通りが多いからこそ遭えたんじゃないかな」
 
「そりゃ正論だね。……ところでさ、今の『遭う』って変換間違ってない?」
 
「合ってる」
 
「あっそ」
 
 
 
「……」
 
「……」
 
 
 
「いつまでついてくるの?」
 
「俺もこっちに用事があるからね。偶然じゃない?」
 
「話が
 
「噛み合ってない、って?」
 
「……ッ」
 
「ははっ、そうカリカリしないで」
 
さすがに本気でイライラし始めた乙羽だが、ふと前方に立ち塞がる男達を見て立ち止まる。
男達は全員髪を金や茶色に染めており、耳や鼻にピアスを開け、いかにも小物っぽいチンピラだった。
先頭にいた男の一人が、前に出て臨也を睨みつける。
 
「テメェ、折原臨也だな?」
 
「そうだけど?」
 
「オレらの事をチクりやがったの、お前らしいじゃねぇか」
 
「……ちょっと、何の話?」
 
乙羽はちゃっかり臨也の後ろに回り、ひそひそと彼に聞く。
少しの間、臨也は考えるように腕を組んで首を傾げていたが、思い出したように言った。
 
「ああ、アレか。いや何かさ、最近ここら辺で店のガラスとか叩き割られる事件が相次いでたんだけどね、
その犯行グループが『クリムゾンスカル』とかいうカラーギャングじみた奴らでさ。
幹部達がヤクザに目を付けられて組織は解散したはずだけど。そっかー君らはその残党か。で? 何か用?」
 
臨也は淡々とつまらなさそうに述べていたが、男達の先頭にいた男が声を張り上げる。
 
「だから言っただろうが! テメェがヤクザに俺らの情報流したんだろ!」
 
「それって言いがかりじゃない? 俺が君らの事をヤクザに言ったって証拠でもあるの?」
 
「んだとォ?!」
 
――挑発させない方が良いんじゃないかなぁ。
臨也の後ろに隠れて事が過ぎるのを暢気に待っていた乙羽だったが、男達の行動に仰天する事になる。
 
 
 
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ