青春トラジコメディ

□遭遇
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始業式も無事に終わり、乙羽も自分の教室に帰ろうと廊下を歩いていた。
途中までは出席順に並んでいたはずだが、いつの間にか男女もクラスも関係なくごちゃごちゃに並んでいる。
隣には、ちゃっかり蘭太郎もいた。
 
「校長の話、長いよなー。そういえば数えたか? 校長が喋ってる間に何回『えー』って言ったか」
 
「んーと……50か60回は言ってたよね」
 
「まだ少ない方だって。最多記録は100回越してるらしいから」
 
「どんだけ『えー』連呼してんの校長!」
 
「ねえ、君」
 
蘭太郎とだらだら歩きながら談笑していた乙羽だったが、後ろからかけられた声にふと立ち止まる。
乙羽の後ろに立っていたのは、黒い学ランに赤いシャツを着た黒髪の青年だった。
この来神学園は私服登校が認められてはいるものの、まだ来神の制服を購入していない為に
前の学校の制服を着ている自分以外で初めて、乙羽は制服以外の服を着ている人物を見た。
青年は人当たりの良さそうな優しい笑顔を浮かべているが、乙羽にはどうもその表情が胡散臭く見えた。
 
「皆守乙羽さん、だっけ? 転校生の」
 
「……そうだけど」
 
「俺は折原臨也。良かったー帰ってなくて、君と話がしたかったんだ。ああ、そっちの君は教室帰っても別に構わないよ。
全くもって用は無いから。凄く用は無いから。全然用は無いから。正直言うと邪魔だし。むしろ帰れ」
 
と臨也がさりげにヒドい事を言う前に、蘭太郎は顔を真っ青にしてその場を逃げる。
乙羽は蘭太郎を呼び止めようとしたが、臨也が止める。
 
「言ったでしょ? 君と話がしたいんだ・って」
 
「私は教室に帰りたいの」
 
「うーん……困ったなー、君と俺の意見は一致しないか。でも俺は君と話がしたい。だったら俺が強硬手段に
踏み切っちゃっても仕方がないよね? 仕方がないよねぇ。うん、仕方ない。じゃあ踏み切っちゃうか」
 
そう言いながら、臨也は乙羽に顔を近付けた。
近っ!
 
「皆守乙羽。天香学園の生徒会執行委員で庶務。兄弟構成は、双子の弟が一人。彼は未だ天香学園に通っている。
これが、俺の知っている君のコト。……でもさぁ、君まだ何か隠してるだろう? 他にも色々と、さ」
 
「……何が言いたいの」
 
「俺はただ、教えてほしいだけなんだよ……《天香学園の地下に眠るモノ》を、ね?」
 
「――ッ!!」
 
今まで臨也がベラベラと喋っていた乙羽自身の個人情報にはピクリとも
反応しなかった乙羽だが、臨也が最後の一言を発した瞬間に顔色を変える。
その様子を見て、臨也は何とも楽しそうに笑った。
 
「……君は、何を知ってるの?」
 
「知らないよ? 何も知らないさ。だから知りたい……それだけの事だよ」
 
くすくすくす、と嘲笑うかのような臨也の笑い。
乙羽は、この挑発には乗るべきではないと分かっていた。
だが、彼がどこまで《天香学園の地下にあるモノ》を知っているか――
 
「普通に考えてもおかしいよね、ただの学校に墓地が広がってるなんて。それに代々生徒会長をやってる人の
屋敷が学校の敷地内にあるとか変でしょ。変だと思わない? これじゃあ妙な噂が立ってもしょうがないよね。
『天香学園の墓地の下には遺跡が広がっていて、そこには秘宝が眠っている』――なんて噂がさ」
 
臨也はそこまで話し、俯いている乙羽の反応を待つ。
別に臨也は、乙羽から天香学園の情報を聞き出す為にそんな事を言った訳ではない。
ただ、反応が見たかったのだ。静雄の化け物じみた力を目の当たりにしながら近寄っていった、彼女の。
しかし乙羽は、臨也の予想に反した反応をする事となる。
 
 
 
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