青春トラジコメディ

□対面
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「おらァァァァァアアアアッ!!!」
 
「ぎゃぁああ!」「うひいぃぃ!」「ぐぉえッ!」「うぎゃぁああ!」「ふごッ!」「ちょ、待――ぐぁッ!」
 
醜い悲鳴(酷)を上げながら吹っ飛んでいく男ども。
グラウンドに立つのが金髪の青年だけになった時、彼は疲れたようにサッカーゴールを脇に放った。
ズシン、という音と共に、サッカーゴールは地面に倒れる。
 
「……ッ、はぁ、はぁ……」
 
肩で息をしていた青年――平和島静雄は、少し眉をひそめて左腕を押さえる。
そこは、さっき襲いかかってきた男の一人にナイフで切りかかられたせいで、破けて血が滲んでいた。
――あー、ツイてねぇ。今日はちょっと先公に呼び出されて、
始業式では絶対に暴れるな、って指導を受けに来ただけのはずだってのに……
そう思いながら静雄が歩きだそうとすると、背後からこの場に不釣り合いな声が上がる。
 
「うわ、重っ! 無理無理、持ち上がんないってコレは!」
 
「……ぁ?」
 
静雄が訝しげに振り向くと、そこには見た事のないセーラー服に身を包んだ黒髪天然パーマの少女がいた。
少女は静雄が放ったサッカーゴールのポール部分を両手で掴んで
持ち上げようとしていたが、無理と分かるとすぐに諦めて静雄の方を向く。
 
「君、凄いね! 普通ならこんなに重いサッカーゴールは振り回せないよ?
あ、君ってもしかして重量挙げの選手か何か? それにしても凄いねー」
 
「……あぁ?」
 
――何だコイツ。
ふわふわした黒髪を揺らしながら少しズレた質問をしてきた少女に、静雄は眉をひそめた。
彼女は今の光景を見ていなかったのだろうか? いや、それなら
静雄がサッカーゴールを振り回した事も知らないはずである。
ならばなぜ、サッカーゴールを易々と振り回していた静雄に自分から近付いて来たのか。
近付いたら怪我するかもしれない、とかいう考えは浮かばなかったのだろうか。
そう考えていた静雄だったが、躊躇なく近寄ってきた少女に驚いて少し身を引いた。
 
「っ?!」
 
「怪我してるじゃない! こっち来て、手当てしてあげるから」
 
少女はそう言って、静雄の怪我していない方の腕を引っ張る。
しかし静雄は、自分が加減できる最少限の力で少女の手を振り払った。
 
「?」
 
「俺に、近付くな。怪我したいのか?」
 
静雄はそう言って少女を睨みつけ、威嚇するのが精一杯だった。
斬られた腕が痛むのは事実だったのだが、どうもこうやって自分にのこのこ近付いてくる連中を信用出来ないのである。
理由は――そう。折原臨也。奴が関わっている可能性が低いわけが無いからだ。
奴なら、こういう純朴そうで人畜無害に見える少女を使って何かしら良くない事を仕出かそうとするのは、ありえる。
少女はきょとんとしていたが、むくれたような表情になって静雄に近付いてきた。
そして、
 
 
 
 
 
ビンッ!
 
 
 
 
 
「ッつ!?」
 
でこピンした。
少女は腰に手を当てて怒ったように言う。
 
「あのねぇ、強がるのもいい加減にしなさいよね! なーにが『怪我したいのか』よ、怪我してんのはそっちでしょ?
私はただ君の傷の手当てをする為に近付いただけ。別に悪意も何も無いから、安心してよね」
 
まるで静雄の心を読んでいるかのように述べる少女の顔を、静雄は
でこピンされた額を押さえながら呆けた表情で見つめていた。
少女はにこっと微笑むと、静雄の右手をとって歩き出す。
 
「さ、こっち来て。包帯くらいは巻いてあげるよ。あーあと、止血もね」
 
「……」
 
静雄は少女に手を引かれるまま歩いていたが、ふと、自分の右手を見下ろす。
重なっているのは、静雄のそれより一回り小さくて柔らかい、彼女の掌。
心なしか、彼の頬は少しだけ赤かった。
 
 
 
――変なヤツ。
 
 
 
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