青春トラジコメディ
□対面
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春。来神学園。
桜がようやく八分咲きになり始めた頃、皆守乙羽は学校の中庭を歩いていた。
まだ学校は始まっていないが、今年から転入する事となったので、学校に慣れる為に訪れたのである。
乙羽は桜を見上げながら、前に通っていた学校に残った双子の弟を思い出していた。
自分から乙羽に「出ていけ」とか言っていたくせに、別れ際で一番寂しそうな表情をしていた、大切な弟。
「……まだまだシスコンだよねえ、甲ちゃんは……」
ドォォン
呟きながら桜並木の間を歩いていた乙羽だったが、遠くから響いてきた轟音に肩を跳ねさせる。
「?!」
思わず乙羽は、その音がした方向に振り向いた。
乙羽がいたその場はちょうどグラウンド全体が眺められる位置で、轟音はそこから聞こえる。
……あれ? 何か……おかしいな。あれ?
「サッカーゴールが、飛んでる……?」
そんなワケ、あるはずが……
あった。
ていうか、正確に言えば、サッカーゴールは飛んでなかった。
振り回されてた。イヤそっちの方がそんなバカな、だけど。
その代わり、人が、飛んでいる。
大勢の来神生徒らしき男達が、中央に立つ金髪の青年が振り回すサッカーゴールで次々と宙に舞っていた。
青年がサッカーゴールを振り回す。人が飛ぶ、宙に舞う。悲鳴が上がる。
そんな光景を見ていた乙羽の中によぎった感情は、「恐怖」とか「驚愕」ではなく、ただひとつ、純粋に――
――『カッコいい』。