小市民狼と情報屋狐

□狐の独白
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ふと、目が覚める。
視界に飛び込んできたのは、見知らぬ天井だった。
状況を理解しようと眉をひそめたが、コンマ一秒で今朝の事を思い出した。
……そうだ、ここは俺の事務所じゃないんだっけ。
ぼんやりとした頭でそう考えると、俺はソファからゆっくりと体を起こす。
と同時に、腹部に走る鈍い痛み。
 
「、っつ……!」
 
腹の痛みに思わず顔を顰めて、俺は表情を苦々しく歪める。
……あーあ、思い出した。完ッ璧に思い出せたよ。
仕事の帰りに偶然シズちゃんと鉢合わせして、運悪く拳を一発腹に喰らって。
何とかシズちゃんを撒いたは良いけど、痛みのあまりに行き倒れたんだっけ。
そこまで思い出して、ふと周りに彼女がいない事に気付く。
俺を拾ったこの家の家主――大神乃良の姿が。
 
「……ああ、買い物だっけ」
 
そういえば、俺がソファでうたた寝する前に、彼女がそんな事を言っていた気がする。
俺の分の生活用品を買ってくるから大人しくしていろ、だっけか。
出かけて行った少女の顔を思い出して、臨也は、他者から見ても何とも言えないような笑みを浮かべる。
 
 
 
――本当、絵に描いたようなお人好しだよね。
 
年は多分……高校生だろうな。たしか机の上に来良学園の入学案内書があったはずだ。
 
未成年、しかも女子高校生が、見知らぬ男を家に上げておいて、自分はそいつを残して買い物に出かけるなんてね。
 
無防備にも程があるだろ。警戒心ってものが存在しないのかな?
 
まあ、そんなお人好しのおかげで俺は無事でいられたんだけど。
 
あんな道のど真ん中に倒れていたら、確実にシズちゃんに見つかっていただろうし。
 
 
 
取り合えず、腹から響いてくるこの痛みだけはどうにかしたいので、俺は携帯をいじり、とある人物に連絡を取った。
 
「あ、運び屋? ちょっと頼みたい事があるんだけどさ」
 
 
 
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