青春トラジコメディ

□遭遇
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本日は、来神学園の始業式。
の前に、乙羽は今、これから1年間世話になる教室の入り口前に立っていた。
始業式前に《転校生》としての挨拶をする為に、だ。
担任の織田にポンッと背中を叩かれ、緊張していた体が少しほぐれる。
 
「まぁ、簡単な自己紹介だけで良いからな。質問とかの無茶振りはしないし」
 
「は、はいっ!」
 
まだ緊張気味な体を何とか動かしながら、乙羽は織田に続いて教室に入る。
途端に、今まで喧しくざわついていた教室の中がシンと静まる。
織田が教卓の前に立ち、黒板に乙羽の名前を書いてから彼女を軽く紹介した。
 
「今年からこの来神学園で学ぶ事となった皆守乙羽だ。彼女は去年まで別の高校に通っていたんだが、
家庭の事情もあってウチの学校に転入することとなった。分からない事もあるだろうし、仲良くするように」
 
生徒達がまばらに返事をしたのを確認すると、織田は「それじゃ、皆守」と乙羽に自己紹介を促す。
 
「ぇ、っと、皆守乙羽って言います! ここに来る前は、新宿の天香学園にいました。な、仲良くして下さい!」
 
「天香学園」という単語に何人かがヒソヒソ話を始めたが、それも拍手でかき消された。
織田は乙羽に「皆守の席は1番後ろの1番窓側だぞ」と教える。
乙羽は机の合間を縫って何とか1番後ろの列に辿り着いたが、彼女の右側の席が空いている。
どうやら、欠席しているようだ。机の横にあるフックには何もかかっていない。
担任が連絡事項を話し始めた時、前の席に座っていた男子が振り向いた。
 
「オレ、森蘭太郎っていうんだ。よろしくな」
 
「あ、うん。よろしくね。……ねぇ、どうして私の隣の席、空いてるの? ここの人、今日は欠席?」
 
その質問に、蘭太郎は少々困ったような苦いような表情になる。
 
「あー……欠席、っつうか……」
 
「?」
 
「そこの席さ、この学校でも屈指の問題児の席なんだよ。でも結構律儀な性格してるし、
たぶん始業式を休むような奴じゃないと思うんだよな。欠席というより遅刻じゃないか?」
 
ガラッ
 
と蘭太郎がヒソヒソ小さな声で乙羽に教えていた時、黒板に近い方の教室の扉が開いた。
入ってきたのは、昨日乙羽が手当てをした金髪の青年だった。
 
(あ、あの人……)
 
「何だ平和島、また喧嘩か? まぁ今日は不問にしといてやるから、とにかく席に着け」
 
「……はい」
 
静雄は織田に軽く頭を下げると、まっすぐ自分の席へと歩いていく。
鞄を机の横にかけた時に、静雄はやっと乙羽の存在に気付いた。
 
「あれ、お前……昨日の」
 
「うん。腕の怪我はどう? 痛みとか」
 
「あー、別に。えっと……」
 
そこまで言って、静雄は黒板に書かれていた文字を一瞥する。
 
「ミナモリ?」
 
「ミナカミです残念ながら。皆守乙羽っていうの。はじめまして」
 
「皆守乙羽……よし、覚えた。俺は平和島静雄だ」
 
「何て字?」
 
乙羽がそう聞くと、静雄は「ちょっと待っててな」と言って鞄を漁り、紙とシャーペンを取り出した。
それに名前を書きなぐり、乙羽に渡す。紙には若干乱暴な字で「平和島静雄」と書かれていた。
 
「ヘイワジマシズオ君か……うん、私も覚えたよ」
 
これからよろしく、と乙羽が笑顔を向けると、なぜか静雄はそっぽを向いてしまった。
乙羽が頭に「?」を浮かべていると、織田が始業式の為に体育館に
移動しろと言うのが聞こえたので、取り合えず席から立ち上がる。
静雄の耳が赤いように見えたのは、たぶん気のせい。
 
 
 
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