◆PSYCHO-PASS

□3係の狡噛さん2
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3係の狡噛さん 第二話 



 公安局の適性が出た宜野座と狡噛は晴れて監視官として仕事をすることになったのだが…
「どうして俺とギノが離れ離れにならなきゃならないんだ…」
 狡噛は誰もいない廊下で、がっくりと肩を落としてそう呟く。
 宜野座は法学部出身ということもあり1係に配属されたが、成績優秀だった狡噛は人手不足の3係りに配属されることになったのだ。
「…ギノ、一人で大丈夫かな…」
 一人でダメそうなのはどう見ても狡噛のように見える。
 狡噛は配属されて一ヶ月間、宜野座とシフトが合わずにろくな会話をしていない。
 何度かメールを送ってみたのだが、帰ってくる返事は「眠いから寝る」とかそういう素っ気ないもので、宜野座の体調を思う狡噛はそれ以上付き合わせることなくメールを打ち止めにしていたのだ。
「…今月のシフト、今日発表だ…」
 狡噛はあと数分でデバイスに送られてくるだろうシフト表を待ちながら、ぬるくなった珈琲を一気に煽る。
 ピピピピッ。
 電子音がして、狡噛はデバイスの新着表示をフリックした。
 刑事課全員のシフト表が目の前に浮き上がってくる。
「…今週の日曜日…!!」
 狡噛は宜野座と自分の表を照らし合わせて、休暇の重なる日があったことに感嘆の声を漏らした。これで宜野座との時間を過ごすことができる。
 狡噛は嬉しさのあまり、廊下に蹲って壁を叩いた。
「…なにやってんだ、コウ」
 そこへ、狡噛の背後から征陸の声。
「い、いやっ! とっつぁん、なんでもないんだ!」
 狡噛は慌てて立ち上がると、引きつった笑いを浮かべながら後ろ歩きに征陸から遠ざかる。
「お前まさか…」
 刑事のカンが働いたのか、征陸の表情が急に険しくなった。
「そのまさか…じゃないから! お、俺もう今日は上がりだから! じゃーなとっつぁん!」
「コウ! 待てお前ッ!」
 言い捨てて走り出した狡噛を、征陸が追いかけようとしたが、執行官という立場上監視官が同行しないと外出はできない。監視官を追いかけるのに監視官が必要だなんてふざけた話だが、実際そういうことになるのだから仕様がない。
 狡噛は征陸が追ってこれない場所まで出てふーっとため息をついた。
「はぁ〜、とっつぁんには用心しないとな…」
 呟いて空を見上げると、今にも雨が降りだしそうな曇天だった。




『ギノ、今度の日曜日お前も休みだろ? メシでも食べに行かないか?』
 狡噛は家に帰ってから宜野座にメールを送った。
 最近は挨拶程度のメールしかしていなかったから、返事が返ってくるのか心配だったのだが、
『わかった。11時にお前の家に行く』
 という簡潔な内容のメールが即座に帰ってきた。
「よしっ!」
 狡噛は宜野座に了解の旨を返すと、伸びをしながらベッドに倒れこむ。
 今から日曜日が楽しみでしょうがない。



 日曜日。
 11時ぴったりにインターホンが鳴った。狡噛は既に支度を整えて宜野座が来るのを今か今かと待っていたので、鳴った瞬間に扉を開ける。
「久しぶりだな」
 少しはにかんだ様な笑みを浮かべて宜野座がそう言った。
「お、おう…」
 ホログラムではない宜野座(どういうことだ狡噛)が目の前にいる。狡噛は今すぐにでも抱きしめたくなりそうだったが、宜野座に不審に思われてはいけないと思いぐっとこらえた。
「狡噛…?」
 両手を宙に浮かせて固まっている狡噛に、宜野座が訝しげな声を出す。
「な、なんでもない。メシ、どこ行きたい?」
 取り繕うような笑顔を浮かべて、狡噛は宜野座にそう訊き返した。
「……。そうだな、お前は何が食べたいんだ?」
 一瞬だけ怪訝な表情をしたが、気を取り直した宜野座は質問に質問で返す。
「なんでもいいぜ? 嫌いなもの、特にないしな」
「…そうか。俺もなんでもいい。モロヘイヤ以外なら」
「っぷ…」
「なんだ」
「いや、なんでもない」
 このやりとりも久々だ。狡噛は宜野座を促して部屋を出ると、早速街中へと繰り出した。
 日曜日の昼時はどこの店も混んでいる。そう踏んだ狡噛は、宜野座を伴って新宿の外れにある小さな喫茶店に足を運ぶことにした。
「少し歩くけどいいか?」
「あぁ、近頃運動不足でな」
 宜野座は狡噛の問に、苦笑しながら答える。
「忙しいのか、1係りは」
 同じ職場でどこの係がなんの事件を追っているかなど知っているが、最近これといって取り上げるような事件は起きていない。
「いや…なんというか、人間関係か…」
「人間関係…? あぁ、もしかしてあの佐々山とかいう…」
 あの男のことは3係にまで噂が回っている。重度の女好きだと自称しているらしいが…。
「しつこくて困る」
「は?」
「あ、いや…なんというか、誘いが、な…」
「なんの誘いだよ!」
 狡噛は思わず横を歩く宜野座の前に回り込んでその両肩を掴んだ。
「いや…、それは…」
「聞かれたら困るような事なのか…?」
 俯いて言葉を濁す宜野座に、狡噛が問いかける。一体佐々山は宜野座をどこに誘おうとしたのだろうか。
「トイレだ」
 暫く逡巡した宜野座が、ため息をつきながらそう答える。
「は?」
 狡噛は思わず素っ頓狂な声を出してしまった。トイレにさそうなど、怪しすぎる。
「…ギノ、絶対一緒に行くなよ。佐々山の為に心を鬼にしろ」
「そんなことはわかっている。だが最近思うんだが…アイツはトイレにトラウマでもあるんだろうか…」
 気づけ、バカ。狡噛は思わずそう怒鳴りそうになったが、気づいていない宜野座が傷つくといけないのでぐっと言葉を飲み込んだ。
「いや、そんなことないと思うぜ。俺一人で行ってるところ見たことあるし」
 狡噛は最もな答えで宜野座を窘める。
「…そうだよな。俺以外の人間を誘っているようには見えないしな…おかしな奴だ」
 コイツのこういう疎いところなんとかしないといけないな。狡噛は真剣に考え込む宜野座を横目に見ながら真摯にそう思った。



2013.5.15 瀬田 真殊

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