..はじめの一歩..
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一通り話を終え、私はカップを机に置いた。
「優しいことは知ってたんですが、背負われた時に男の子だなって思ったんです。それから、あの時の彼の笑顔が頭から離れなくて・・・」
「ふふ、ななしちゃん。可愛いのね。それは彼に恋してるんでしょ」
「こ、恋ですか!?」
あの池に泳いでいる魚じゃなくて?
でも、冷静に考えてみるとそうなのかもしれない。
よく女子の友達間では恋バナをしてキャーキャー盛り上がるのだが、まさか自分の事に関してはこんなにも鈍いものだとは。
「この前までは普通に仲の良い友達だったんです。私、どうしたら良いんでしょうか」
「それは、ななしちゃんがどうしたいかじゃないのかな」
机に肘を立て、顎を乗せている山口先生を見つめる。
先生の仕草は何をしても大人ぽくて色気がある。
「わ!私、まだ彼とは今まで通り仲良く過ごしたいです!だから・・・」
「今の彼を避けてしまう自分をどうにかしたいのね」
「はい・・・」
私は自分の足下を見つめながら、呟いた。
このままでは、仲良くどころか彼を避けてしまって逆に辛い。
「今はそうかもしれないわね。でも、ななしちゃんは自分が恋をしてるって事に気付いた。それだけでも、全然違うわよ」
「?」
「今までは知らなかった感情に振り回されていたけど、もっと一緒にいたいとか、幸せだなって感じるようになると思うな」
「んー」
「ちょっとずつで良いのよ」
人には人のペースがあるから、ね
と可愛くウインクして見せる山口先生。
私、先生に惚れそうです。ぁ
これからどうなるのか、彼を見て避けてしまうかは分からないが、誰かに気持ちを打ち明けた事で今までのモヤモヤしていた感情が吹っ飛んでいることに気付いた。
私は、私なりのペースで
先生にお礼を言い、私は医院を後にした。
私は幕之内君に恋をしています。
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